
おひつじ座
猫の寝息

やわらかな感受を
今週のおひつじ座は、『ぬるたまを吹きひとゆれの猫ばしら』(九堂夜想)という句のごとし。あるいは、頭で考えた理屈やどこぞ覚え込んだ知識から、ひとり密かにそっと離陸していこうとするような星回り。
「ぬるたま(寝魂)」は夢の異称であり、部屋の隅のキャットタワーの上で眠りこけている猫でもいたのかも知れません。
きっとそれは、普段なら見落としてしまうような些細な「ひとゆれ」であり、耳を澄ませてやっと聞こえるかすかな寝息を確認することでやっと確信を得られるような、なんでもないほど微細な何かであったはず。
ただし、それは同時に、作者の世界をそっくり変えてしまうような深い震度を持ち得ていたのではないでしょうか。その意味で、作者が発見し体験した「ひとゆれ」は間違いなく無の底から浮かび上がってきたひとつの詩的な世界であり、情趣だったわけです。
実験音楽家のジョン・ケージが80年代に雑誌『遊』に残した言葉を借りるならば、そうした微細であるはずなのに深いところでこちらの実存をゆるがしてしまうような“何か”とは、「ポットの音―できれば鉄瓶の方がのぞましいけれど―が湧いた瞬間だっていい。寿司の肴の色が変わるか変わらないかの分かれ目だっていい。広重の雨がポツンと降ってきた矢先だっていい」。それらはいずれも、“見つけるもの”というより“見つかってしまう”もので、知識や理屈ではなく、むしろ私たちがそこからはずれてしまうことに対するやわらかな感受なのであり、「そこに禅機があり、音楽がある」(ケージ)のだと。
3月7日におひつじ座から数えて「気付き」を意味する3番目のふたご座で上弦の月(行動の危機)を迎えていく今週のあなたもまた、耳ざわりのいい空想上の世界に住むのではなく、実際の人生のマジカルな可能性についてきちんと目を見開いていきたいところです。
転身の要求
ここで思い出されるのは、1900年に刊行され、当時まだ真面目な研究の対象とはされていなかった夢について、これこそ無意識の世界に至る王道なのだと論じてみせたフロイトの『夢判断』の一節です。
読者はどうぞ私の諸関心を読者自身のものとされて、私と一緒になって私の生活の細々した事の中に分け入って戴きたい。なぜなら、夢の隠れた意味を知ろうとする興味は、断乎としてそういう転身を要求するものだからである。
ここでわざわざ「転身」という言葉が使われていることに注目されたい。そう、夢というのは少なからず、夢見た者や夢を語る者の「現実」に侵食し、時に現実そのものをきわめてマジカルな仕方で書き換えてしまうのです。
例えば、夢は確かにふだん目覚めている時の人生に対する1つの解釈なのだと分かってくるに従って、目覚めている時の人生もまた夢の解釈なのだと分かってくるように。
今週のおひつじ座もまた、そんな「転身」を少なからず遂げていくことが求められているのだと言えます。
おひつじ座の今週のキーワード
ミラクル・マジカル・ジュエリーレ!





