
おひつじ座
いのちのざわつき

失われた食欲を求めて
今週のおひつじ座は、快楽の源泉としての「空腹」のごとし。あるいは、揺るぎない情熱の意義と特性とを改めてつかみ直していこうとするような星回り。
食べたいときに食べる自由を失うことによって、われわれは食事全般への興味をも失いつつある。そこで「栄養」という観念が生まれる。魂の中に忌まわしいビタミンだの、プロテインだの、コレステロールだのが這い込んでくる。人間は不滅の魂を忘れ、高カロリーの飼料を摂取しなければならない雌牛のようなものと自分を見なし始める。しかし、それで健康になる……とでも言うのだろうか?(沼野充義・北川和美・守屋愛訳)
こう訴えかけていたのは、『亡命ロシア料理』(1996)のタイトルの通り、20世紀後半にロシアからアメリカへ亡命し、ニューヨークでジャーナリストとして活躍した2人のロシア人批評家ワイリとゲニスである。2人はアメリカ的なジャンクフードを罵倒し、故国の料理への郷愁に苦しめられながら、「人間とはその食べるところのものである」という自分たちの出発点を再確認していくのです。
本当の食欲が生まれるのは、料理に対して作り手として興味を持つことからだ。これからテーブルに並べようとするメニューをよく考え、すべての材料を丹念に吟味して、料理の盛りつけにも時間を惜しまず、美的感覚を相談すること。(…)そうして初めて、詩人が書きもの机に向かうように、食卓に向かうことができるだろう。そしてそのときやっと、食事への愛という、人間の情熱の中でも最も揺るぎない情熱の意義と特性を完全に把握できるだろう。
2月5日におひつじ座から数えて「自己価値」を意味する2番目のおうし座で上弦の月(行動の危機)を迎えていく今週のあなたもまた、食欲が食事を神聖な儀式に変容させる瞬間を食卓にはつかないくらいの覚悟で臨んでいきたいところです。
精巧かつ多様な求愛ディスプレイを見せるオス鳥
動物への哲学的分析を重ねてきた思想家ジャン=クリストフ・バイイは、ニューギニアとオーストラリア北部のコヤツクリ科の鳥のオスが、周辺のくずを拾い集めてほとんど芸術的なまでの小さな箱庭を作ってメスを誘惑する習性を取りあげて次のように述べています。
生きる意志は、食糧や性的パートナーを探す時期に最も強くなるが、実は動物を混乱させ、ひどい目にあわせもする。それは、出来あいの答えを提供するのではなく、たくさんの作業(障害の克服、計略の練り直し、通り道の再開削など)を通して、絶えざる問いかけとなって現れる。動物がまだ多く生存する場所に足を踏み入れた途端に私たちがいつも感じる、あの絶えず忙しそうな感じ、休みなく活動しているという印象は、そこから来る。まるで私たちの周りのいたるところで、生命が自らを探索しながらざわついているかのようだ。(『思考する動物たち』)
つまり、コヤツクリ科の鳥のオスにとって、求愛行動は単なる美しい儀式などではなく、いつでも不意に何か不測の緊急事態が現われ得る、果てしない悩みの種であるかも知れず、潜在するリスクの海の中でたまたま何事もなく表出したものが、「はかない刺繍」のように人間側に見えているに過ぎないのだと考えられるだろうと。
いずれにせよ、動物というのは同一の種であっても、大人数で行う二人三脚のようにいっせいに歩調を合わせて歩んでいくものではなく、星のように散らばり、きらめきながら、てんでばらばらな方向をむいて、種を繋ぐための施策を試みていくもの。
今週のおひつじ座もまた、そんな定型から外れた動きとたえざる問いかけとを、自身の生活に取り戻していきたいところです。
おひつじ座の今週のキーワード
生きる意志は食糧や性的パートナーを探す時期に最も強くなる





