おひつじ座
野人の相
ある精神的な励磁
今週のおひつじ座は、中井久夫の「S親和者」という概念のごとし。あるいは、問題解決者でなく問題提起者として歴史に選ばれた行動を取っていこうとするような星回り。
精神科医の中井久夫は統合失調症とは何かという問題を人類史的視野で検証した『分裂病と人類』(1982)の中で、統合失調症的な気質をもつ人について「分裂病親和者(S親和者)」という新しい概念を使って説明しようとしました。これは「まだ発病はしていないけれども、もし精神疾患を患うとしたら統合失調症になるだろう人」を指す言葉であり、その一番の特徴について中井は次のように表現していました。
もっとも遠くもっともかすかな兆候をもっとも強烈に感じ、あたかもその事態が現前するがごとく恐怖し憧憬する
つまり、まだ訪れていない未来に対して、過剰なまでに先取り的な構えを持っているのが「S親和者」であり、中井はこうした気質の持ち主たちは、人類史の原点である狩猟採集時代には優位性を発揮し、リーダーシップを取っていたのではないかと指摘しています。
では、農耕社会の成立以降は、「S親和者」の兆候に敏感な気質や行動は一貫して倫理的にマイナスなものとされてきたのかと言うとそうでもなく、「非常時または特定の職業倫理」においては大きな力が発揮されてきたのだと言うのです。
奇妙なことは、無事平和のときには「隠れて生きることを最善」とするS親和者が、非常時にはにわかに精神的に励磁されたごとく社会の前面に出で、個人的利害を超越して社会を担う気概を示すことである。
10月17日に自分自身の星座であるおひつじ座で十三夜の満月(実り)を迎えていく今週のあなたもまた、最近の自分自身の言動のなかに少なからず「S親和者」的な気質や構えの現われを見て取っていくことができるはずです。
野生のうめき声
例えば映画『もののけ姫』で、イノシシの生皮をかぶって常人とは思えない動きで乙事主という巨大なイノシシの神を欺いていたり、離れたところから観察していたジバシリは、ジブリの創作ではありますが、おそらく狩猟を生業にしていた山の民をモチーフにしたものであり、「S親和者」をキャラクター化した好事例の一つと言えるでしょう。
山や森のように木々が密集し何が潜んでいるか分からない深い森や、岩が隆起して足元が不安定で即座に方向感覚が狂わされてしまうような場所は、常人では近づくことすら困難であり、ましてや舞台は古代から存在する神々が住まうと言われる場所ですから、敵方でも地味な印象ではありましたが、ジバシリは欠かせない存在だったはず。
平地に定住しない彼ら山の民は、戦後に入るとすっかり姿を消してしまいましたが、その起源はきわめて古く、日本だけに限らず時代を問わず世界中に存在した普遍的な「野人」の系譜にあたる存在と言えるでしょう。つまり、いくら文明人のふりをしようとも、化けの皮をはがせば、そこには紛れもなき野人の相が今もなお刻み込まれているということ。
今週のおひつじ座もまた、心の奥底でうごめくジバシリたちの足音がだんだんとこちらへ近づいてくるのが感じられるかも知れません。
おひつじ座の今週のキーワード
本能を丸出しにする