おひつじ座
迷宮喪失の時代にて
自分のためにシェルターを用意していこう
今週のおひつじ座は、アイデンティティのかくれんぼ遊びのごとし。あるいは、いざとなったら身を隠せるような場所に目星をつけていくような星回り。
現代社会というのは物理的にしろ精神的にしろ、身の周りのガラクタはなるべく排除して、合理的かつ能率的にやろうという考え方がどうしても優勢になっています。
これは例えば家の構造にしても、2DKであるとか間取りがだいぶ合理化されていますし、一軒家にしても既製のものはどれも似たり寄ったりで、いずれにしろ無駄や余計な部分がどんどんなくなっている。つまり、子どもらがかくれんぼするような場所がないんです。
街の構造にしても同じで、昔はどこの街にも横丁や裏路地があって、街自体がもっと複雑に入り組んでいたし、どこかに必ずカオスみがあって、延々と鬼ごっこができてしまうようなある種の迷宮(ラビリンス)になっていました。それが、都市計画による整備やら、消防署によるやかましい勧告などで、街から家から“隠れる”場所がなくなってしまった。それに、今はSNSでどこで誰が何をしてたかという情報がすぐに出回りますから、ますます身を隠すことが絶対にできにくい世の中になってしまったんですね。
それでも、僕たちはもうこんな自分は嫌だってなってくると、身を隠すために病名をもらいに病院に行ったり、不倫をしてみたり、裏垢をつくってみたりと、じつに色々なことをしていくわけですが、これは単にそういうことをする人がヤバい人間であるというより、「身を隠す」ということが人間の深層心理に根差した行為で、一種のインキュベーション(潜伏)がアイデンティティに粘り気や弾力性をもたせていく上でとても重要であるということの裏返しなのではないでしょうか。
7月6日におひつじ座から数えて「安心安全」を意味する4番目のかに座で新月(種まき)を迎えていく今週のあなたもまた、かくれんぼ遊びに興じる子どもにもどったつもりで、どこでなら自分が安心して身を潜めることができるのか、アンテナを働かせてみるといいでしょう。
サティの帰り道
19世紀から20世紀にかけて活躍したフランスの作曲家で、しばしば「音楽界の異端児」と呼ばれるエリック・サティは、32歳の時にパリの中心部から郊外の町に引っ越してからというもの、死ぬまでの約30年間ほとんど毎朝、元の家までの10キロ近い道のりを徒歩で歩くことを日課とし、途中ひいきのカフェに立ち寄って、友人と会って酒を飲んだり、作曲の仕事をしたりしながら、午前1時発の最終列車までの時間を過ごしたのだと言います。
時おり、というか、しばしば彼はその最終列車さえも逃して、そのときは家前の道のりをやはり徒歩で歩き、帰りつくのが夜明け近くなることも少なくなかったのだとか。
こうした彼の徒歩癖は、その創作活動とどんな関係にあったのか。ある研究者は、サティの音楽の独特のリズム感や、「反復の中の変化の可能性」を大切にするところなどは、「毎日同じ景色のなかを延々と歩いて往復したこと」に由来するのではないかと考えているそうですが、直感的に述べれば、それは彼なりの身の潜め方だったのではないでしょうか。
同様に、今週のおひつじ座もまた、自分なりのかくれんぼ遊びのスタイルについて、あれやこれやと試行錯誤してみるべし。
おひつじ座の今週のキーワード
安全地帯