おひつじ座
味は嘘をつかない
眼光一閃
今週のおひつじ座は、『夏痩せて嫌ひなものは嫌ひなり』(三橋鷹女)という句のごとし。あるいは、今までナアナアですませてきた自身の精神をキュッと引き締めていこうとするような星回り。
この句に満ち溢れている憤りは、その場で目の前にいる誰かというよりは、自分自身に向けられているのではないでしょうか。
年をとるにつれ、栄養素的に野菜をとらなきゃいけない、ジャンクフードは体に悪いから食べちゃいけないなど、健康増進やエロス価値の維持を気にした自己管理的な文脈をまとっていないと「人としてちゃんとしていない」などと非難されかねなくなっていくものですが、少なくとも作者はここで「果たしてそれは本当だろうか?」といぶかしげな眼差しを送っている。
これが単なるわがままとかヒステリックなぼやきと一線を画しているのは、おそらくこうした普遍的な本音を、時代を超えて多くの人が胸に秘めているからでしょう。この句を作ったとき、作者は37歳。
戦前(1930年代半ば)でその年齢と言えば、もはや若さをかさにきて無茶を言ったりやったりできる年齢ではなく、粛々と周囲の要請を受け入れる大人の女性としての振る舞いをして当然とされたはずですが、夏痩せして研ぎ澄まされた作者の精神にはそうした風潮の中にある種の欺瞞を見出さざるを得なかったのでしょう。
同様に、6月29日に自分自身の星座であるおひつじ座で下弦の月(意識の危機)を迎えていく今週のあなたもまた、これまでなんとなく受け入れてしまっていたものに、改めて「NO」を突きつけていくべし。
アウレリウスの場合
プラトン以来の理想とされた「哲人君主」の実現例と見なされた紀元2世紀のローマ皇帝であり、ストア派の哲学者でもあったM・アウレリウスが、戦地でも書き続けた日々の備忘録である『自省録』に次のような一節があります。
たとえ汝が三千年、いや三万年生きようとも、誰もいま生きている生以外の生を失うことはなく、いま失う生以外の生を生きることもない(…)最も長い生涯と、最も短い生涯とは、それゆえ、同等(中略)万物は流転するが、おなじ軌跡を繰り返しているのであり、見者にとっては、それは百年みていようと二百年みていようと、永劫に同じことだ。
無限の長さのフランスパンを想像してみるといいかも知れません。その全体を食べ切ることはできなくても、パンを一口食べただけでも、「味」という点では、その全体を味わったことと同等と言えるのではないでしょうか。
問題があるとすれば、それはむしろ「一口しか味わってないから」と、瞬間や短い今を単なる通過や過程として過小評価することの方にあるように思います。
その意味で、今週のおひつじ座もまた、長く続くものやことよりも、現在の短く鮮烈な<味わい>にこそ集中していきたいところです。
おひつじ座の今週のキーワード
存在神秘の妙味