おひつじ座
ぱっと生まれてそっと死ぬ
魂のゆらめき
今週のおひつじ座は、『わが見れば吾の痕跡初蝶に』(正木ゆう子)という句のごとし。あるいは、いったんすべてを白紙に戻していこうとするような星回り。
長く厳しい冬を生き延び、春になって忽然と現われた「初蝶」。それは、他ならぬ私の痕跡を確かに残した「吾(あ)」そのものだった。久々に見かけた蝶と自分自身とが重なった、胡蝶の夢さながらの無境界の世界線を詠んだ一句。
春の兆しの訪れに、不意をつかれたのでしょう。普通なら、蝶と人間の生きている世界はあまりにかけ離れており、わずかに接近することさえほとんどありませんが、そうした決定的な断絶や隔たりを作者は「あっ」とつぶやく拍子に、いとも簡単に超えてみせます。
生きものとしての姿かたちや、社会の中で何様であり、何を為してきたかといったことが、まるですべて些事であるかのように、作者のまなざしはひらりひらりと中空に浮きあがっては、生死の彼岸からこちら側をまなざし返していく。そこには、一体どれほど生臭く、自己愛をこじらせた人間の在り様が映っているのでしょうか。
3月4日におひつじ座から数えて「ゆらぎ」を意味する9番目のいて座で下弦の月(意識の危機)を迎えていく今週のあなたもまた、過酷な現実にさらされて鉛玉のように凝り固まってしまったアイデンティティを、蝶の羽ばたくのごとく開いていくべし。
ぶらぶら
ここで思い出される作品に、ジャック・ケルアックの『オン・ザ・ロード』があります。
この小説は、1940~50年代のアメリカを舞台とし、作者が自らの放浪体験を元に書き上げた自伝的作品であり、目的もなくぶらぶらすることが大の得意だった世代への賛歌なのですが、とにかく登場人物がみな、ろくな計画を立てないうちに、いきなり出発するし、何か起こるたびにやたらと何かを叫んでいます。
サルとディーンとディーンの新妻メアリールーは、「なんでも好きになり」、見つけたものが何であれ、「その狂乱の渦」に巻き込まれたいと思い、デンバーやシカゴやニューオリンズやその他行く先々で、そこにいる人々がやっていることをする。
なぜかと言うと、彼らはいつも、こんな具合に出発するから。
そこへ行って何をするんだい?
さあ、知らないね、なんだっていいさ
そしてあとから、自分が何をしているのか気が付くのです。今週のおひつじ座もまた、ぜひともそんなサルとディーンたちを見習っていきたいところです。
おひつじ座の今週のキーワード
効率性や計画性とは無関係なところで何かを始めていこうとしていくこと