おひつじ座
平常であり続けるための流儀
平常心をめぐる問いかけ
今週のおひつじ座は、真のエピキュリアンのごとし。あるいは、昂ぶった精神をすーっと鎮めていこうとするような星回り。
エピキュリアンとは、古代ギリシャの哲学者エピクロスの徒(門人)の意であり、ふつう快楽主義者を指して使われる言葉ですが、実際にエピクロス自身が説いたのは、なによりも心の平静な状態(アタラクシア)を善とすることであり、それは一般的にイメージされる自分勝手で欲望をむさぼる快楽主義とは正反対のものでした。
確かに彼はあらゆる善の基礎を胃袋や性愛や聴覚の「快」にあるとはしていますが、その快とは、「道楽者の快でもなければ、性的な享受のうちに存する快でもなく、なによりも、肉体の苦しみなく魂が平静であることにほかならない」とし、真の快の生活を生み出すものとは、魂に動揺を与えるさまざまな恐怖心を追い払う働きをする「平常心」なのだと考えたのです。また、エピクロスはこの平常心について、次のようにも言及しています。
いやしい魂は、思いがけない幸運によって膨れあがり、不運によって打ちのめされる(『エピクロス: 教説と手紙』(岩波文庫))
ここでは、魂が「いやしい」状態になりさがっているか、それとも高貴な状態へなりあがっているかが、平常心が働くか否か、自身が重く静かな存在となり得ているかの基準になっている訳ですが、これは現代人的な感覚からはとても新鮮に映るのではないでしょうか。
2月29日におひつじ座から数えて「精神と時の部屋」を意味する12番目のうお座で土星と太陽と水星の3つの惑星が重なっていく今週のあなたにおいても、「魂がいやしいかどうか」という古典的な問いかけは、とても重要な基準となっていくように思います。
イェイツの仕事の流儀
ここで思い出されるのが、アイルランド文芸復興の担い手で、ノーベル文学賞作家でもあったW.B.イェイツが、2つの意味で「規則的に仕事をすること」を大切にしていたという話です。
ひとつは、集中力がなくなってしまうから。いわく、「少しでも変わったことがあると、私の決して堅固とはいえない仕事の習慣はくずれてしまう」と。そして、2つ目の理由が彼がカタツムリのように物凄くゆっくりとしたペースでしか仕事ができなかったから。
彼の手紙によると、「私は書くのがとても遅い。満足のいくものは、1日にせいぜい5、6行で、それ以上書けたためしがないし、80行以上の叙情詩を書くのは数カ月かかってしまう」そうですが、詩以外の収入を得るために書いている批評文などに関してはその限りではなかったようで、「人は生きるためにおのれの一部を悪魔に与えなければならない(中略)私は批評文を与える」とまで書いています。
イェイツが平常心をもって仕事に取り組み続けることができたのは、まさにこの区別にあり、これと決めた核心的な仕事だけに自分なりの流儀を厳しく適用していったのです。
今週のおひつじ座もまた、魂がいやしくならないよう自分を戒めるため、一体どんな「流儀」を適用していけばいいのか、改めてアップデートしていくことがテーマとなっていきそうです。
おひつじ座の今週のキーワード
肉体の苦しみなく魂が平静であること