おひつじ座
脳など脇に置いておけ
小さな丸い粒の上で
今週のおひつじ座は、ステープルドン的思考のごとし。あるいは、できるだけ遠くのものとごく身近な光景とを一つの視座の中で結びつけていこうとするような星回り。
イギリスのSF作家で哲学者のオラフ・ステープルドンは、第一次世界大戦に従軍し、激戦地から死傷兵を搬送する任についていた時、過酷な戦場で夜空を見上げながら、ある哲学的な「目覚め」を体験したのだという。
その体験は、のちに肉体を離脱して宇宙の彼方へ探索の旅に出る壮大かつ幻想的な宇宙誌小説『スターメイカー』の主題となっていくのですが、その冒頭の散文詩を思わせる記述のさわりをここに紹介しておきます。
全世界?全宇宙?頭上の薄闇から星が一つ姿を見せていた。幾千年か分からぬ昔に放たれた、一つの震える光の矢。それが今わたしの神経組織を刺激して幻覚(ビジョン)をもたらし、わたしの心を慄きで満たした。このような宇宙にあって、わたしたちの偶発的で脆弱で儚い共同体に、いかなる意味がありうるというのか。
どこを向いても、影のような山々か、おそらくは特徴のない海が、見はるかす彼方へと延びていた。しかし鷹のように天翔ける想像力は、山々と海が地球を這うように視野の向こうへと延びていくのを追った。太陽の光と、闇のなかで回転する、水と空気の膜に覆われた、岩石と金属から成る小さな丸い粒の上に、自分がいるのを感じた。そして、その小さな粒の皮膜の上の人間の群れのすべてが、世代から世代へと、ときどきに歓喜を、ときどきに神霊の光明を抱きながら、懸命かつ闇雲に生を重ねてきたのだ。
ここには人間を含む全生命体から、惑星や恒星、銀河まで、宇宙全体を波動的様相のもとに観想するステープルドン的思考の原点があるように思われます。
同様に、1月21日におひつじ座から数えて「長期的ビジョン」を意味する11番目のみずがめ座へと冥王星が移っていく今週のあなたもまた、世間をみずから狭くするのではなく、できるだけ広げていくことを意識していきたいところです。
本能と頭脳の葛藤
例えば、見慣れた日常の一角からふいに未知の世界にワープしてしまった状況を想像してみましょう。家から駅までの通学路や通勤路から、いきなりステープルドンのように遥か彼方の真っ暗な宇宙空間へまで行かずとも、見知らぬ外国の街角へでも立たされたなら、さぞかし心細い思いに駆られるはず。
ただ、街の通奏低音とでも言おうか、耳慣れない喧噪のなかに、なにか洒脱な音楽性を感じたり、淡いなつかしさのようなものを覚えると、自然と考えより先に手や足が伸びてしまうものだったりするのも人間です。
当然、視覚情報としては、目に飛び込んでくるどんな光景も不安を呼び起こすばかりではあるけれど、生命というのは元来そんなに“やわ”には出来ていない。素直で大胆な体が頭より先に反応する時は、既存の文脈の枠内で必死に情報を処理しようとまごつく脳などそっと置いてけぼりにしておけば良いのです。
自分の辞書にのっていない現実の匂いや音、肌ざわりや味に接したなら、さながら昆虫採集する少年のように、ただ無心でそれらに自分のからだを開いていくこと。耳なら耳、鼻なら鼻、指なら指と、まず一つこれで確かめようという、自分なりの“先遣部隊”を決めておいてもいいかも知れません。
今週のおひつじ座もまた、ここのところ進行しつつある“現実”の書き換えに対し、いささかの戸惑いを覚えつつも、自分なりの適応を遂げていくことがテーマとなっていくでしょう。
おひつじ座の今週のキーワード
ワープへの適応