おひつじ座
子どもだましには付き合わない
大人は子どもで、子どもは大人?
今週のおひつじ座は、『子ども来て絵本くべたる焚火かな』(榮猿丸)という句のごとし。あるいは、自分の一部が生まれ変わる神聖な瞬間に立ち会っていくような星回り。
どこかから子どもがやって来て、持参した絵本を火にくべたという、思わずドキリとする一句です。書籍業界では数年前から「大人の絵本ブームが到来している」と言われるようになりましたが、大人になって熱心に絵本を読み始めることだって大いにありえるのだとすれば、その逆も然りでしょう。すなわち、子どもが早々に、ないし満を持して絵本を卒業することだってあるはず。
また、「焚火にくべる」というのは、単に捨てるとかゴミ箱に入れるといったこととは決定的に異なり、目に見える形で存在したものが目に見えない状態へと昇華していくことや、その変容の現場に立ち会うこと、同時にそれが半身との別れの儀礼としても機能することなどをも意味します。
そしてこの「子ども」は、いつか焚き火の炎のなかに、かつて幼い自分が絵本を介して触れたキャラクターたちや心象風景をふたたび見出すことでしょう。そう考えると、「焚火にくべる」とは、みずからの大切な一部を一時的に別のところへ預けておくということでもあるのかも知れません。
11月5日におひつじ座から数えて「童心」を意味する5番目のしし座で下弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、今まさに火にくべるにしろ、炎の中に何かを再び見出すにしろ、大人の目に見えない領域に接していくことになるでしょう。
リチャード・バック『かもめのジョナサン』の場合
他のかもめたちは「伝書鳩は飛ぶべき場所を飼い主に仕込まれている」と鳩を馬鹿にしつつも、自分たちが餌をとるためにしか飛ばないことにはまったく無自覚だったのに対し、ただひとりジョナサンだけは、「飛ぶ」という行為そのものに価値を見出し、それを純粋に追求していこうとしました。
ところがジョナサンは「ただ無意味に」飛ぶことを楽しむということの異端さゆえに、同族の群れから追放されてしまいます。しかしそれでもたった独りで飛行術を追求し続けたジョナサンは、やがて誰よりも早く高く飛ぶことができるようになります。
そしてそれは、かもめとして食うや食わずの生活のから可能な限り遠く離れた、世界のエッジにたどり着かんとする試みであり、ひとりぼっちの孤立でもあると同時に、かもめの運命としての制約からの解放でもありました。
今週のおひつじ座もまた、ただ他者や世間に対して大きな力を持とうとする代わりに、みずからを特定のパターンに規定してくる思考停止とこそ闘っていきたいところです。
おひつじ座の今週のキーワード
白昼夢を追う