おひつじ座
ふるきをたずねて
先祖の水に浸る
今週のおひつじ座は、『銀漢や研師佐助は父の祖父』(清水青風)という句のごとし。あるいは、みずからに息づいている系譜の力に思いを馳せていこうとするような星回り。
「研師(とぎし)」は刃物や金属製の鏡を研ぐ職業。今でも数そのものは減り続けていますが、人間国宝とされるような研師やその技の継承者たちはいまだ存在し続けています。作者は美濃(岐阜)出身の人ですが、美濃一帯では中世の時代から武器の需要が高く、おのずと刀鍛冶や研師も名匠とされる職人もたくさんいたのでしょう。
秋天にさえざえと懸かる「銀漢(天の川)」の澄みは、どこか歴代の研師たちが研ぎあげてきた日本刀のひかりにも似ていますが、作者はさらに両者の神秘的な響きあいに遠い時代の曾祖父の魂をかさね、茫洋(ぼうよう)とおもいにふけっている訳です。
私たちはみな先祖から遺された魂の糸を受け取り、その陰や影らとも絡み合っていきます。そして、ちょうど作者が掲句を通して為さんとしたように、先祖から継承したものを認識することで、私たちはみずからの人生をトランスパーソナルな領域に参画させると同時に、自身のうちに脈打っている系譜の力と可能性とに気づくようになります。
9月23日におひつじ座から数えて「向きあうべきもの」を意味する7番目のてんびん座で秋分を迎えていく今週のあなたもまた、自身に宿る一徹の魂に思い当たっていくはず。
引用する私たち
例えば、私たちが普段何気なく行っている引用という行為も、そうした「先祖から遺された糸を受け取る」ということと密接に関わっています。
そもそも厳密な意味でのオリジナルと言えるものは、いにしえの神話や伝承であれ、現代のコンテンツ作品であれほとんど存在しません。今日において何かしら真剣にクリエーションに携わっていれば、何らかの元型的なパターンや先行モデルを換骨奪胎(かんこつだったい)して転調したり、表現や視点を再配列してずらしていくという営みにおのずと首をつっこんでいるはず。
ひさかたの天知(あめし)らしぬる君ゆえに日月(ひつき)も知らに恋ひ渡るかも(彼方の天をお治めになっている君だから、いつ果てるとも知らずに恋い続けることだ)
例えば、既に亡くなった高市皇子(たけちのみこ)を現在の柿本人麻呂がしのぶこの歌などは、どこか『君の名は。』や『時をかける少女』などの作品世界を彷彿とさせるものがありますし、タイムリープものであればオルフェウス神話や民間伝承などにまで遡ることができるかも知れません。
そうした先人の遺してくれた偉大なパターンを積極的に引用し、みずからに取り入れていくこともまた誠実な愛情表現であり、広義の意味での自己受容なのだということを、今週のおひつじ座は胸に刻んでいきたいところです。
おひつじ座の今週のキーワード
引用とは魂の洗礼であり、先祖の意図を受け取って、その先を紡いでいく決意表明に他ならない。