おひつじ座
ひそやかなる愉しみ
驚きと独白
今週のおひつじ座は、『萩に雨こんな日もなければ困る』(中原道夫)という句のごとし。あるいは、社会的に培われた無駄な緊張をほどいていこうとするような星回り。
廊下のガラス戸越しに、庭の萩を眺めているのでしょう。「萩(はぎ)」は秋の七草の筆頭に挙げられ、紫の色の花を咲かす姿は清楚ではありますが、どこかさりげなく、端的に言えば地味です。そこに雨が降っている。
広告会社のデザイナーでもあった作者は、なにかと多忙な毎日を送っていたことと思いますが、だからこそ不意に世間の騒がしさから離れ、自身の身におとずれた閑居ぶりに新鮮さを感じ取ったのかも知れません。
「こんな日もなければ困る」という句またがりの長めの独白も、休日にどっと押し寄せた疲労感や倦怠感からではなく、そうした驚きによって思わず口をついて出たものなのではないでしょうか。
近代社会は「労働」を他のどんな活動よりも上に位置づけ、私たちもいつしかそれを当たり前のこととして受け入れ、適応させる形でライフスタイルが出来上がってしまっているように思いますが、そんな人間の小さな「当たり前」を、「萩に雨」の閑さが打ち破ってくれたのだとも言えます。
9月7日におひつじ座から数えて「遊び」を意味する3番目のふたご座で下弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、そんな“閑さ”を自身の日常に打ち込んでみるといいでしょう。
山林伐採者の成熟
山林伐採の労働者たちは、老練になればなるほど入って日が浅いアルバイトの性急さをあざ笑うかのように、ほとんど禁欲的なほど小さな歩調でゆっくりと山道を登り、十分すぎるほどの「食休み」を取りながら、最後まで汗をかかないで仕事を終え、長老格になるとそこに周囲を退屈させない話術さえ加えながら、山を下るのだといいます。
彼らは「山林」という苛酷な環境において、ちょっとしたストレスや焦り、神経の摩耗がどれだけ自分たちの身を危険に晒し、命取りになるかをよく知っており、からだやこころの緊張を和らげるための習慣づけを日頃からよく心がけているのでしょう。
一方、精神科の患者には休息が不得手だったり、ほとんど休息抜きの労働を長時間続けがちで、そのために結果的に働けなくなってしまったような人が少なくありませんし、歴史的にもいかなる職業であれ(奴隷労働においてさえ)「ささやかな遊び」と「ひそやかな愉しみ」は存在してきたのです。
今週のおひつじ座もまた、真剣さを休みなく働くことに直結させるのではなく、逆にどれだけそのリズムを健全なものに整えられるかがテーマとなっていきそうです。
おひつじ座の今週のキーワード
細やかな休息を