おひつじ座
無難な処理を選ばない
どこか異常で問題ない
今週のおひつじ座は、『テーブルに七味散りをりかき氷』(小野あらた)という句のごとし。あるいは、おかしいのは自分ではなくて、社会の方なのだと、改めて冷静になっていこうとするような星回り。
昼時にふらりと入った大衆食堂での一幕。夏になると店先に「かき氷」と書かれたのぼりを掲げる店も増える。作者もそれにつられ、無意識に涼をとろうとこの店に入ったのだろうか。
だがしかし、テーブルの上には前の客がうどんに振ったらしき七味の残がいが散ったまま。俳句に詠まれるモチーフの取り合わせとしては、七味とかき氷というのは意表をついているし、どこかぞんざいな店の雰囲気も伝わってきて面白いが、よく考えると作者の七味への執着はどこか異常に感じられて、おかしい。
あるいは、誰もが火照った全身をクールダウンさせてくれる「かき氷」に真っ先に向かうところで、思わずピリッと味にアクセントを加え、味に深みをもたらす「七味」の方に目を奪われてしまったことの意外性に、作者自身も驚いていたのかも知れない。
ああ、でもそうか、たしかに自分は無感覚になりたかった訳じゃない。ただ、ちょっとした面倒やストレスを避けようとしていたら、いつの間にか何も考えないですむよう、判断や行動の余地がないくらい固められてしまっていたのだ、と。
同様に、8日におひつじ座から数えて「実感」を意味する2番目のおうし座で下弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、自分を知らず知らずのうちに無感覚/無思考へと促していくような流れに歯止めをかけていくべし。
タレスの言行一致
古代ギリシャの哲学者タレスは、紀元前585年の日食を予言して見事的中させたエピソードなどでも知られる人類史上でも第一級の碩学(せきがく)ですが、その悲惨な死に方でも有名です。
プラトンの『テアイテトス』によれば、タレスは頭上の星に気を取られて空の井戸に落っこちて、下女にからかわれたのだとか。確かに笑いたくなる気持ちも分かりますし、「やっぱり凄いというよりおかしい人だった」ということにしておいた方が無難な気もする。
おそらく井戸の底に落っこちた際、タレスの眼前にはさっきまでとは違った意味での星が見えていたはずですが、もしかしたらこれは単なる滑稽なエピソードというより、宇宙万有の生成変化の大元にある原理を「水」で説明し、「大地は水の上に横たわる」という言葉を遺したとされるタレスの思想の寓話的表現であったのかも知れません。
というのも、何かに人生をかけていれば必然的に本人の生き様や具体的なエピソードにも本人の思想や哲学が反映されていくということはそう珍しくはないからです。
その意味で、今週のおひつじ座もまた、自分の生き様や思想が思わぬところで具体的なシチュエーションに反映されていくことがあるかも知れません。
おひつじ座の今週のキーワード
本人の恣意(しい)を超えてこそその作品は鮮やかなものとなる