おひつじ座
豊かな孤独を
おのれの内側にじっと聞き入る
今週のおひつじ座は、『灯を消して春雷を聞くウヰスキー』(真木康守)という句のごとし。あるいは、じわじわと時間をかけて予感を深めていこうとするような星回り。
雷はどの季節でも発生しますが、春の雷には積乱雲の起こす夏の雷のような烈(はげ)しさはなく、寒冷前線の通過に伴って、1つ2つ鳴ってやむことが多いのが特徴。
気にしなければ鳴っていることすらも意識に昇らないこともある「春雷(しゅんらい)」を、掲句ではあえて「灯(ひ)を消して」、じっと聞き入っている。そうして、遠くの方で起こったほんの些細な変化の兆しさえも取りこぼさずに、我がこととして受け止めようとしているのかも知れません。
ただ、手元にはどこか孤独に浸ることを楽しむかのように「ウヰスキー」を転がしていることからも、ここでは「変化」と言っても悲劇的な運命というより、どこか身の浮き立つような明るさの兆しや解放感の訪れを予感しているのでしょう。
「ウヰスキー」とともに瞬発的な言葉やリアクションをあえて呑み込むことで、作者はともすると軽く弾んでしまいがちな気分や感性を、ぐっと深めておのれを成熟させようとしているようにも見えます。
15日におひつじ座から数えて「精神生活」を意味する9番目のいて座で下弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、掲句のような成熟のための時間を設けていきたいところです。
トールキンの場合
映画『ロード・オブ・ザ・リング』の原作者J・R・R・トールキンは、『指輪物語』の草稿を執筆しながら、地図やスケッチを描くことで物語に情報を加え、アイデアを試して成熟させていったのだそうです。トールキンにとって、「書く芸術」と「描く芸術」は密接に絡み合っていました。
物語の舞台となった「中つ国」の地形を、作者としての自分や、自分が生み出したキャラクターの視点を借りたりなど、さまざまな角度から描き出し、そこに漂ってくる雰囲気の中に物語の兆しをとらえていく彼の試みは、先ず何よりも彼自身をとりこにしたようです。
トールキンは文字通り、生徒からの提出物の採点の合間であれ、家族と過ごす休日の最中であれ、時間も場所も状況もおかまいなしに、時間があけばスケッチにとりかかり、その行為に夢中になっていたのです。
今週のおひつじ座もまた、そんな極私的な愉しみのために必要とされる半径数メートルの日常を、どこまでも掘っていくような、静かで深い愉悦の感覚にすっかり支配されていくことでしょう。
おひつじ座の今週のキーワード
自分の予感やアイデアを「育てる」こと