おひつじ座
底をぬく
日常が姿を変えていく“感じ”
今週のおひつじ座は、『くちびるに湯豆腐触れぬ吹きをれば』(榮猿丸)という句のごとし。あるいは、いきいきとした交感のなかに飛び出していこうとするような星回り。
アツアツの湯豆腐を「フーっ、フーっ」と息を吹きかけて冷ましていたら、くちびるの先が触れちゃった、アチチチという一句。
はやく食べたい、お腹を満たしたい、体の芯から温まりたいという気持ちがはやまって、思わず口を近づけ過ぎたばっかりに起きた些細な出来事ですが、視覚の代わりに別の感覚が強調されていくことで、次第に“ただごと”ではなくっていくさまがよく描かれています。
息を吹きかけるたびに全身の神経が「くちびる」の先に集中していき、そこに不意に熱いものが「くちびる」に触れ、驚きと戸惑いがなだれ込んでくる(……こう書いてみると、どこか色ごとを暗に連想させる句でもあるのかも知れません)。
湯豆腐の白に、息を吹きかける音、唇にふれてくる感触、そして熱。すなわち、視覚から聴覚→触覚→熱感覚と順に意識の焦点を切り換えていくことで、見慣れた日常から丁寧にステップを踏んで普段目にすることのない非日常へと移り変わっていく“感じ”を追体験していくことができるはず。
同様に、12月8日におひつじ座から数えて「文脈の豊かさ」を意味する3番目のふたご座で満月を迎えていく今週のあなたもまた、普段使っていない引き出しをあけたり、行ったことのない領域へと繰り出して、単調になりがちな日常に彩りを加えてみるべし。
底のぬけたるもの
江戸時代の松尾芭蕉は、ある時を境にそれまでの言葉遊びやお約束事に縛られた俳諧の世界から離れて、独自の新しい道を開拓していったことでも知られていますが、自分の俳諧に対する態度について「底のぬけたるもの、新旧の区別なし」という言葉を遺しています。
人は何か新しいものを創り出そうとして、往々にして既成の基準やそれまでの常識から出発してその圏内をまったく出れないまま終わることがほとんどですが、それについて芭蕉は新しいものと古いものをあまり短いサイクルのうちに求めてはいけないという言い方でいさめています。
さらに、まことの「新」とは、「古」に対する「新」なのではなくて、いっさいの既成の基準に頼らず、ほとんど孤立無援の中で必死に求めなくてはならず、それがうまくいったのが「底のぬけたる」状態なのだと言うのです。
その意味で、今週のおひつじ座もまた、過去や他人との比較を通じた“相対的に”新しい自分を目指すのではなく、感覚や論理が一変してしまうところまで「底をぬく」ことで、こざかしき現実を突破していきたいところ。
おひつじ座の今週のキーワード
視覚→聴覚→触覚→熱感覚