おひつじ座
小さくまとまらないために
生きる、それが第一
今週のおひつじ座は、ウィリアム・カーロス・ウィリアムズの自叙伝の一節のごとし。あるいは、たくましく生き延びていくための決心を固めていこうとするような星回り。
20世紀のアメリカを代表する詩人ウィリアム・カーロス・ウィリアムズは、その生涯をニュージャージー州で開業する田舎医者として過ごしつつ、代表作『パターソン』など多くの素晴らしい詩を書きあげ、死後にピュリツァー賞も受賞しています。彼は医学系の大学に入学した際、あらためて芸術に生きるべきか、医師として生きるべきかを自問します。
だが最後にぼくに決断させたのはお金だった。医学を続けるぞ、詩人になる決心をしたかぎりは。つまり、医者というぼくの楽しんでやれる仕事だけが、欲するままに生きて書くことを可能にしてくれるのだ。生きる、それが第一。そして書くんだ、絶対に自分が書きたいように書く。この構想の達成のために、無限の時間がかかろうとも。平常心を持ち、醒めていて何ごとにもバランスを保つ。これがぼくの狂おしいほどの願いだ。結婚する(今すぐにではないが!)、子供を持つ、それでも書く。いや実際には、それだからこそ書く。自ら病気を招いたり、芸術のためにスラム街に住んだり、蚤の餌になったりはすまい。「芸術のために死ぬ」のではなく、芸術のために生きるのだ。たくましく!(アスフォデルの会訳『ウィリアム・カーロス・ウィリアムズ自叙伝)
こうして書き写していても、その溌溂とした口調や健康的で地に足の着いた力強さに圧倒されるところがありますが、彼の言葉は今のおひつじ座にとっても大きな指針となるはず。
10月3日におひつじ座から数えて「社会的立場」を意味する10番目のやぎ座で上弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、「生きる、それが第一」「芸術のために生きるのだ」といった力強い言葉をよくよく言い聞かせていくべし。
木村蒹葭堂の肖像画
爛熟期の江戸時代に、大阪で酒造業者をしながら自邸を知識人の集まるサロンとして、書画や本草学・医学・蘭学などあらゆる分野の貴重な書物や物品を蒐集した木村蒹葭堂(けんかどう)という伝説的な人物がいます。
彼は一体何をした人物なのかと問われると、何もしなかったようでもあるし、あまりにも多くのことをしたようにも思えるのですが、とにかく彼の家には毎日、さまざまな人が訪れ、また多くの人と手紙のやりとりをして、人びとは彼の影響を受けたようです。その意味で、彼は世間の媒体(メディア)になりきったのだと言えますが、その器の大きさはこうして彼の実績を書いてみても、いまいち掴めない感じが残ります。
ところが、当時の画壇の大御所である谷文晁が描いた彼の肖像画を見ると、一目でそれが木村蒹葭堂と分かるほどに特徴的なのです。ぼんやりとした暖かい目に、長く垂れた耳、大きな鼻、そして何より、口を大きくあけて笑っているその表情は、一歩間違えれば愚かにしか見えないのですが、それがギリギリのところで「大愚」すなわち大人物の気風となりえているのは、ひとえに対象へのリスペクトがあったからでしょう。
今週のおひつじ座もまた、そんな得体の知れない大人物となっていくべく、あえて「大愚」の気風をまとって過ごしてみるといいでしょう。
おひつじ座の今週のキーワード
賢そうなふりをしないこと