おひつじ座
そしてストーリーが始まる
一番イキイキしているとき
今週のおひつじ座は、ぼけ老人に寄り添っていく介護人のごとし。あるいは、計画倒れをどこかで喜んでいこうとするような星回り。
社会不安が強まってくると、いわゆる「ケチがつく」ことを異様に嫌がったり、ひとつそういうことが起きると極端に動揺したり、簡単に投げ出してしまう人が増えてくるものですが、人間というナマモノをあつかう世界では、むしろ計画通りにいかないことが当たり前に起きてくるのではないでしょうか。
たとえば、雑誌『ヨレヨレ』で知られる「宅老所よりあい」の代表・村瀬さんは自身の経験を踏まえて次のように語っています。
とくに「ぼけ」のあるお年寄りはこちらの計画に全く乗ってくださらないし、それを真面目に乗せようとすればするほど、非常に強い抗いを受けます。その抗いが、僕たち支援する側と対等な形で決着すればいいのですが、最終的には僕らが勝ってしまう。下手をするとお年寄りの人格が崩壊するようなことになります。だから計画倒れをどこか喜ぶところがないと。計画が倒れたときに本人が一番イキイキしていることがあるんです。(伊藤亜紗、村瀬孝生「ぼけと利他(1)」)
つまり、想定外の反応に出会ったり、そうした状況に直面したりということは、他者の潜在的可能性に耳を傾けるよき機会であり、そこで相手を発見したという感触こそが、本当の意味で誰かと関わるようになっていく上での分水嶺になっていくのだと。
9月23日におひつじ座から数えて「生の感触」を意味する7番目のてんびん座に太陽が入座する(秋分)今週のあなたもまた、計画を立てないというわけではなくても、計画どおりにいかないことにこそヒントがあるのだということを改めて胸に刻んでいくべし。
須賀敦子の「半地下の部屋の思い出」
作家の須賀敦子が学生時代ひと夏をロンドンの屋根裏部屋で過ごしていた頃の話として、ゴミを捨てにアパートの階段をおりた際、思いがけず地下室の住人と鉢合わせになったことをきっかけに、次のような思い出について書いていました。
思いがけない窓のならんでいるのを見て、私はこどものころ読んだ話を思い出した。キエフだったか古いロシアの町に、靴職人がいた。その男は地下室のような部屋に住んでいたが、場所が場所だし、職業がらもあって、道を通る人たちの靴をいつも注意して見ている。靴から上は見えないのだけれど、靴を見ただけで、男にはそれを履いている人の寿命がすっかりわかってしまう。そんなふうにストーリーが始まるのだった
確かに町で建物のそばを歩いていても、私たちはほとんどの場合、自分の足の下がガランドウになっていることなど想像だにしません。須賀が出会った地下室の住人である老婦人も、まさにキエフの靴屋さんと同じような造りに違いないと直感したからこそ、彼女の記憶に深く刻まれていたのでしょう。
今週のおひつじ座もまた、こんな角度から自分に向けられていた視線があったのかという、新鮮な出会いに不意に開かれていくことがあるかも知れません。
おひつじ座の今週のキーワード
生きた交流は、まなざしの交錯から