おひつじ座
黒い決意
直接的な肉声
今週のおひつじ座は、『汗臭き鈍の男の群に伍す』(竹下しづの女)という句のごとし。あるいは、社会で戦っていく上での意思表示を明確にしていくような星回り。
作者は大正期の女流黄金時代をつくった俳人のひとりで、師範学校の国語教師をつとめたのちに家庭に入り、5人の子どもの育児に従事する傍ら俳句をはじめた人。
彼女にとって俳句とは「旧習慣に捕らえられて精神的にも肉体的にも物質的にも非常なる困惑を感ぜしめられている中流の婦人の或る瞬間の叫び」であったそうですが、掲句もまたそんな彼女の直接的な肉声を反映した一句と言えるでしょう。
「鈍(のろ)の男」とあえて見下げた呼び方をして、周囲をギョッとさせることで、それまで男性のものとされ、女性は例外視されてきた俳諧の席にみずからの場所を確保することなど、さして難しいことじゃないと自分に言い聞かせていたのかも知れません。
いずれにせよ、作者は女性であることに甘える代わりに、額に汗して働く男たちと互角にわたりあい、しのぎを削りつつも、実際に時代を代表する俳人として頭角を現していった訳ですから、単なるこけおどしには終わらなかったことをみずから証明してみせたことになります。
同様に、19日におひつじ座から数えて「自己価値」を意味する2番目のおうし座で下弦の月(意識の危機)を迎えていく今週のあなたもまた、「自分だってこの土俵に上がってやろうじゃないの」と思えるような戦いの舞台を思い定めていくべし。
ブラックパワーの称揚
例えば、1968年に開催されたメキシコ五輪は人種問題で大いに揺れた大会でもありました。IOCが当時アパルトヘイト政策をとっていた南アフリカの五輪参加をはじめて認めたことで、アフリカ諸国を中心に多くの国が大会のボイコットを宣言し、そのためIOCはやむなく南アフリカの参加決定をとり下げることにもなりました。
また、陸上短距離男子200メートルで金メダルと銅メダルを取った2人のアメリカの黒人選手が、表彰式で黒人の貧困を象徴するため、靴を履かず黒靴下のままメダルを受け取り、さらに星条旗が掲げられ国歌が演奏された時、頭を垂れながらブラックパワーの象徴である黒手袋の握り拳をたかだかと突きあげたのです。この場面は、当時世界中の新聞の一面を大きく飾りました。
掲句の作者が、公然と「鈍の男の群に伍す」と詠んでみせた句を鑑賞していると、不思議とこのときの「黒手袋の握り拳」が思い出されてくるのです。
今週のおひつじ座もまた、そんな彼らのように、世の中の「当たり前」に抗い、立ち向かう人々の不屈の力を感じ取っていこうとするでしょう。
おひつじ座の今週のキーワード
非常なる困惑を感ぜしめられている者の或る瞬間の叫び