おひつじ座
背景に思い当たる
隠された苦しみ
今週のおひつじ座は、『八月がくるうつせみうつしみ』(寺井谷子)という句のごとし。あるいは、自分がこうして今も生かされている不思議に思い当っていこうとするような星回り。
前書きには「八月九日、原爆投下目標地は当初北九州小倉であった」とあります。その日の小倉は雲に覆われ目標を目視できなかったため、原爆を搭載したB29は次の候補地であった長崎に向かったのです。
小倉に1944年に生まれている作者にとって、毎年8月が来るたびにそのことを思わずにはいられなかったのでしょう。「うつせみ」も「うつしみ」も“この世を生きるわが身”という意味ですが、「うつせみ」には「空蝉」すなわちセミの抜け殻から転じて“魂のぬけ殻”という正反対のイメージも重なります。
もしもあの日、小倉の空がきれいに晴れていれば、今あるわが身も存在しなかったことだろう、と。十七音に二音たりない不安定な状態のまま終わるこの句は、そんな今生きてあることの不思議が「うつせみうつしみ」という繰り返しのなかでくるくると反転していくのです。そして、冒頭の「八月」以降すべてひらがなで書かれた文字の連なりを眺めていると、そこに書かれていないはずの「くるしみ」という言葉が脳裏に浮かんでくるはず。
8月5日におひつじ座から数えて「受苦」を意味する8番目のさそり座で上弦の月(行動の危機)を迎えていく今週のあなたもまた、隠された苦しみや忘れていたかなしい現実に積極的にアクセスしてみるといいでしょう。
敗者の記憶と繋がっていく
土地の記憶というのは、しばしばそこに眠る敗者の記憶が強く作用しているように感じることがあります。そして、そこに訪れた人が自分は日の当たらない世界に属し、幾多の悲哀や挫折の末にそれでも生き永らえている「敗者」であるという自覚を持っているとき、自然と土地の記憶と感応しあい、はじめて根を張っていくことができるのかも知れません。
ただ、どうしても「敗者」と言ってしまうと、聞こえが悪いというか、積極的に同調したいとは思わないでしょう。しかし、敗者というのは時の運によって、その時たまたま思いを現実化できなかった人たちのことであり、それを受け継ぐということは、彼らの後押しを受けるということでもあるのです。
むしろ、どこにも勝者がいないようなゼロサムゲームに延々と参加させられているような昨今の時代状況においては、そうした繋がりのなかで生きていくことの方が、むしろきわめて自然体に近いのではないか。そんな風にも思います。
おひつじ座の今週のキーワード
過去と現在の二重写し