おひつじ座
連れ出された先にあるもの
汽車に乗った兵士たちの心中
今週のおひつじ座は、『兵隊がゆくまつ黒い汽車に乗り』(西東三鬼)という句のごとし。あるいは、きな臭い空気感を鋭く感じとってはそれを表現していくような星回り。
昭和12年頃の作。満州事変に端を発した日中戦争は、いつの間にか太平洋戦争へと拡大の一途をたどり、軍に徴兵される人の数も年々増加していった状況で詠まれたものです。
当時、軍部の考えに迎合したり賛美したりするようような俳句が、たくさん作られていたことに危機感を覚えた37歳の作者。たとえ戦場に身を置いていなくても、「私たちの肉体に浸透する“戦争”を、おのれの声として発すればよい」と考え、実践した結果生まれた戦争俳句のひとつが掲句で、「すべて脳中の産物であった」とも述べています。
この句は汽車にのせられ、戦地へと赴いていく兵士の様子をイメージ化したもので、特に注目すべきは兵隊と汽車のあいだ、句の中心に「まつ黒い」という語を置いたところです。
もちろん事実として機関車も客車も、吐き出される煙も、すべて黒一色だったのだとは思いますが、汽車に無理やり詰め込まれた兵士たちの心中も「まつ黒」だったはずであり、それは自らを待ち構える死や、思考停止せざるを得ない悲しみのイメージでもあったのかも知れません。
同様に、7月20日に自分自身の星座であるおひつじ座で下弦の月(意識の危機)を迎えていく今週のあなたもまた、みずからの肉体に浸透しつつある“時代の気分”を、おのれの声として周囲に発していきたいところです。
「開かれた建築」から「連れ出された建築」へ
2010年代には「建築を開く」ということがよく言われていて、例えば地域の人が何気なく集まったり、遊びに来られるようにコミュニティスペースを作りました、といった取り組みが盛んになされていました。
そこでは、こざっぱりした人たちがおしゃべりしながらワインなんかを飲んでる光景が写真が載っていて、それがメディアで広められ、次々と似たような光景が複製されていった訳です。一方で、そうして開かれた建築は、思い描かれたイメージの外へとさらに展開していった結果、建築は生活にまみれざるを得なくなっていき、2020年代のいまではその多くが「連れ出された建築」へと変貌と遂げていきました。
例えば、先のコミュニティスペースに集っていたアクティブ層が高齢化し、ワインの試飲会なんてやっている余裕がなくなって、同じ場所が介護施設に転用されるなど、当初の意図からだいぶズレてしまっているのですが、そういうものが真面目な専門雑誌の記事に載っていたら面白いと思うんです。
今週のおひつじ座もまた、どこのガイドブックやカタログにも載っていないような生々しいリアルを自分なりに展開していくことになるかも知れません。
おひつじ座の今週のキーワード
現実の「身も蓋もなさ」により開かれていく