おひつじ座
生命への希求
はねっかえり賛歌
今週のおひつじ座は、聖書に現われる火を噴く獣のごとし。あるいは、見て見ぬふりをしていた自分の中の“爆弾”に火がついていくような星回り。
旧約聖書の『ヨブ記』には、神さまに従う根っからの善人で大富豪でもあったヨブという人物が描かれています。ヨブは、神さまの気まぐれからある日突然不幸に見舞われて財産や家族を失い、ついには自身も深刻な皮膚病にかかって悶え苦しんだ末、絶望的な不幸のどん底で自身を見捨てるかのような神の沈黙についに耐えきれなくなり、「神よ、あなたは冷酷すぎる」と言い放ち、神の所業に異議申し立てをしてしまいます。
ところが、このヨブの発言を聞いた神さまは、逆ギレをかまして「お前にレビヤタンを屈服させることができるか」と怒鳴り散らします。レビヤタンとはナイルワニのことで、このワニは口から火を噴いたのだといいます。こんな恐ろしい獣に、人間は勝てるのか?自分はそんなすごいものを造ったんだぞ、と神は誇らしげに叫びます。
なんだか無茶苦茶な神さまですが、それに恐れ入ったヨブは、改めて神さまが与えた試練に文句を言ったり、神さまに意見をすること自体が許されないのだと悟ります。そして、そんな悔い改めたヨブを、神さまは元の境遇に戻すどころか、財産を2倍にし、長寿と繁栄を与えて以前にも増して祝福したのです。
しかし実のところ、聖書に書かれた最も恐ろしい火を噴く獣とは、レビヤタンではなく、むしろ絶対的な存在である神さまに立てついたヨブに他ならないのではないでしょうか。
3月21日に春分(太陽のおひつじ座入り)を迎えていくおひつじ座のあなたもまた、まさにそんなヨブの異議申し立てにこそならっていきたいところです。
ヘーゲルの運命論
哲学者ヘーゲルは『キリスト教の精神とその運命』という論考の中で、何らかの罰を受けて自らの生きがいとなっていたものが破壊されるとき、彼のなかではじめて運命の働きが始まるのだと述べています。
そのとき、不在のものが自分の分身に他ならないことが自覚され、意識の中で、自分に与えられていたはずのものの「欠如」が「不在の生命」へと変わっていくのだ、と。
そうして「人間は運命のなかに自分自身の生命を認める。そして生命への希求は主人に対する哀願ではなく、自分自身への立ち返りであり接近なのである」と続け、さらに「人間は運命のなかに自己が失ったものを感じるので、運命は失われたものを呼び起こす」と結ぶのです。
ここでは、運命というものが人を大いに翻弄するにも関わらず否応なしに従わなければならないものとしてではなく、むしろその逆で、それに直面していく者の生命力を強めてくれるものとして運命を考察しているのだということが分かります。願わくば、今週のおひつじ座のあなたには後者の態度こそみずから選んでいってほしい。そのように思います。
おひつじ座の今週のキーワード
自分自身への立ち返りであり接近