おひつじ座
はかないがゆえに美しく
生産性を手放して
今週のおひつじ座は、「明易(あけやす)しねむる力の衰へて」(鈴木基之)という句のごとし。あるいは、「する」とは異なる在り方を模索していくような星回り。
「明易」は夏の季語で、明け急ぐ夜を嘆く思いが込められた言葉。子供のころ、若い頃はあんなにストンと眠りに落ちていたのに、年をとってくると眠りが浅くなって、ときどき変な時間に起きてしまう。
そのこと自体は生理現象だが、それをどう受け取るか。たとえもうそんなに眠らなくてもよくなったのだと前向きに納得しようとしてみても、どこかもの悲しさが残るのではないでしょうか。
作者の言う通り、眠るのにもそれなりの力が必要で、だんだんとすっかり日が昇るまで眠りに耽ることもできなくてなってくるのかも知れません。でも、だったら白みはじめた夜空をぼんやり眺める時間を楽しめるようになればいいのです。
ゆっくりでも。そういう自分の身に起こる変化をそっと受け止めつつ、自分を否定せずにいられるようになるために。6月2日におひつじ座から数えて「失われゆくもの」を意味する12番目のうお座で下弦の月(意識の危機)を迎えていく今週のあなたもまた、自分自身に対する力みや緊張を少し手放していくことを意識してみるといいでしょう。
美意識のバトン
人間をふくめあらゆる生き物というのは、この世にすっと誕生したかと思えばあっという間にまたあの世へと帰っていく、ひどくあっけなく、はかない存在です。ともするとネガティブな印象を抱きやすいこうした「はかなさ」について、日本では伝統的にポジティブな意味を与える独自の美意識を育んできました。
「はかないことを夢に見て、美しい取りとめのないことをあれやこれやと考えようではないか。」
「真の美はただ不完全を心の中に完成する人によってのみ見出される。」(岡倉天心『茶の本』)
「はかなさ」とはこうした自分や人生の不完全さを感得しつつ、それを想像力の働きによって完成させる、日本人がその長い歴史を通して育んできた美意識の要諦であり、人生という不可解なもののうちに、何か可能なものを成就させんとする覚悟を伴った美意識なのです。
今週のおひつじ座は、ある意味でそうした「美意識のバトン」を自分なりに受けとっていくことがテーマなのだとも言えるでしょう。
今週のキーワード
はかなさへの自覚