おひつじ座
不安を掬い上げるということ
そっと歴史を振り返る
今週のおひつじ座は、松沢裕作の『生きづらい明治社会』という本のごとし。あるいは、不安と競争を生き延びていく知恵を絞っていくような星回り。
身分制が解体され、制度の上では職業選択も結婚も自由になり、近代国家と資本主義の仕組みも確立した明治時代は、しかし文明開化に前進していく明るい側面ばかりでなく、大変に「生きづらい」世界でもあったのだと著者は言います。
新しい社会において「不安と競争」に投げ込まれた人々は、貧困に陥るのは自分の努力が足りないからだという道徳観念をさらに強化し、貧困者や弱者に対する冷たい視線を当たり前のものにしていったのです。
それから150年以上が経過し、令和を迎えた今、それにも関わらず、苦しい状況にある人に「がんばれ」「変わらなきゃ」と声をかける私たちは、かつての人々とどこか同じ轍を踏もうとしているのではないでしょうか。
世の中には「あまりの複雑さ、わけのわからなさ」に身ごと翻弄される時がありますし、そうすると自分たちが前代未聞の状況に立ち会っているのだと思い込み、さらなる不安に駆られがちです。こうして時おり歴史を振り返ることは、同じ過ちを犯さないためにも大いに必要な事のように思えます。
9月2日におひつじ座から数えて「集合的記憶」を意味する12番目のうお座で満月を迎えていく今週のあなたもまた、少し歩くスピードを落として「果たしてこれでいいのか」と一度いまの自分や周囲の状況を見回してみるといいでしょう。
どもってもいい
では「がんばれ」「変わらなきゃ」と言う代わりに、何を言えばいいというのか。先の著書には、その点をめぐって次のような重要な一節が書かれています。
不安にあらがう方法の一つが、言葉によって、理屈にそって、自分が何におろおろしているのかを、誰かに伝えることなのだ。
どもってもいい。心のなかが不安でいっぱいな時、言葉をなめらかに言うことができず、つかえて同じ音を何度も繰り返したりすることは、何らおかしいことではありません。むしろ、それでも何かを伝えようとすることは大変に勇気ある行為なのです。
そもそも、自分のものでありながら自分のものでない体をたえず携えて生きていくということは、考えてみれば大変なことであり、もっと言えば、時にそれは悲しくてやりきれないものでもあるはず。
そうした不安の表出と向き合うことができるのならば、今週のおひつじ座は、改めて生きるということのままならなさを掬いあげていくことができるかも知れません。
今週のキーワード
違和感を噛みしめる