おひつじ座
夢の見直し
大渦に飲み込まれる船のごとく
今週のおひつじ座は、エドガー・A・ポーの「メエルシュトレエムに呑まれて」という短編小説のごとし。あるいは、孤独ではあるが他者に侵されない安逸にそっと呑まれていくような星回り。
これはノルウェー海岸のひとりの漁師が予測できなかった風に煽られて、船もろともメエルシュトレエムと呼ばれる巨大な渦の中に巻き込まれてしまう。奇蹟的に助かりはしたが、わずか数時間で髪が真っ白になり老人のような見た目になってしまったという海難話なのですが、その体験にはどうも恐怖だけでは割りきれない”何か”があったのです。
「月の光は深い渦巻の底までも射しているようでした。しかしそれでも、そこのあらゆるものを立ちこめている濃い霧のために、なにもはっきりと見分けることができませんでした。その霧の上には、マホメット教徒が現世から永劫の国へゆく唯一の通路だという、あのせまいゆらゆらする橋のような、壮麗な虹がかかっていました。」
船の高さの数十倍もの大渦に、木の葉のように揉みしだかれ飲み込まれていく船の姿が、ここではまるで深い深い羊水の海の底に潜っていく胎児のように思われるのと同時に、やはり底知れぬ恐怖や不安と同居して、時が歩みを停めてしまったかのような楽園の平安が温かく漂ってはいないでしょうか。
6月13日におひつじ座から数えて「忘却と想起」を意味する12番目のうお座で、下弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、胎児の頃に見ていた夢を思い出していくかのように、忘れていた大切な感覚がふっと蘇ってくるかも知れません。
偉大なる夢想者
かつてアメリカを代表する作家マーク・トゥエインは「あなたの大きな夢を萎えさせるような人間には近づくな。たいしたことない人間ほど人の夢にケチをつけたがるものだ。」と述べました。しかし、今の日本社会はどこもかしこも人にケチをつけて回る人間ばかりではないでしょうか。
ただし、歴史を振り返れば、そこには時にどんなケチも近づけさせない「大きな夢」を作り出してしまった巨人たちの姿を、私たちは目の当たりにすることができます。例えば、その内の一人にはケプラーの名が挙げられるでしょう。
科学革命期のドイツの偉大な天文学者であり、惑星運動の三法則の発見者である彼の名を知らない人はほとんどいませんが、そもそも彼の性格は今日の人が想像するような厳格な合理主義者というよりも、ピタゴラスの天界音楽調和説やプラトンの正多面体のイデアを追慕し、それらに基づいて宇宙を説明しきってやろうなどと大それた望みを抱いた夢想者のそれでした。
今週のおひつじ座のテーマもまた、人生で陥りがちな「平凡な当然さ」を打ち破っていくこと。自分の夢の栄養となるものとであれば、どんどん取り入れていきましょう。
今週のキーワード
せまいゆらゆらする橋のような虹