おひつじ座
沈黙より饒舌を
大谷崎の名調子
今週のおひつじ座は、大谷崎の『陰翳礼賛』のごとし。すなわち、自分の信じるところのものを、きちんと誰かに伝えていこうとするような星回り。
日本の耽美主義を代表する作家・谷崎潤一郎(1886~1965)は、関東大震災をきっけに東京から関西へ移住し、作風もそれまでの大正モダニズムから日本の伝統的な美学が色濃く滲むものへ変わっていき、1933年末にはその時点で感得した美学と方法論とを『陰翳礼賛』という一般向けの随筆として発表しました。
そこでは例えば、厠(トイレ)をテーマに次のように書かれています。
「統べてのものを詩化してしまう我等の祖先は住宅中で何処よりも不潔であるべき場所を、却って、雅致のある場所に変え、花鳥風月と結び付けて、なつかしい連想の中へ包むようにした。これを西洋人が頭から不浄扱いにし、公衆の前で口にすることさえ忌むのに比べれば、我等の方が遥かに賢明であり、真に風雅の骨髄を得ている。」
この箇所については、ちょうど同じ年に日本は国際連盟から脱退して孤立化の道を進み、すでに戦争に向かいつつあった状況下で書かれたということと照らしても興味深いのですが、
こうして味気ない西洋文物への愚痴と日本の伝統美学への賛美を交互に繰り出していく谷座の名調子は、どこか今週のおひつじ座の人たちの姿にも重なっていくように思います。
つまり、そこにはまず第1にみずからが取り込まれつつある状況への違和感の表明があり、次におのれが拠って立つために必要な‟支え”に対する揺るがなき饒舌がある。
12日(火)におひつじ座から数えて「既に血肉化されたもの」を意味する2番目のおうし座で満月を迎えていく今週のあなたもまた、満を持して語るべき事柄が口をついて出てきやすいタイミングを迎えているのだ言えるでしょう。
やせ我慢を突き抜けて
トイレの話に戻ると、伝統的な日本家屋ではトイレは母屋から離れていて、夜中に通うにはまったく不便で、特に冬などは寒くてたまらなかったはずですが、この点についても谷崎は次のように続けてます。
「「風流は寒きものなり」と云う斎藤緑雨の言のごとく、あゝ云う場所は外気と同じ冷たさの方が気持がよい。ホテルの西洋便所で、スチームの温気がして来るなどは、まことにイヤなものである」
ここまで来ると単なる意地っ張りにしか思えませんが、美学を貫いていくためには饒舌であるばかりでなく、そうして身を以て我慢の向こう側へ突き抜けていく必要があるのかも知れません。
今週のキーワード
不浄にこそ美学は現る