おひつじ座
根本的な想起をめぐって
ふつうの日常がいちばん怖い
今週のおひつじ座は、恩田陸の『光の帝国』という小説のごとし。あるいは、何のために生きているのかと改めて問い直し、自分なりのハッピーエンドを思い描いていくような星回り。
ふと、この世界が言いようもなく怖い場所であると同時に、どこか懐かしい場所でもあると、そんなふうに感じられることはないでしょうか。
それは例えば子供の頃に感じていた、家に帰ったらお母さんがいなくなっているのではないか、とか、帰りのバスで見知った停留所がいつまでも呼ばれず、このままどこか知らない場所へ連れて行かれるのではないか、といった感覚にも近いかも知れません。
この『光の帝国』という小説を読んでいると、どうも大人になるにつれ忘れていた、そもそもこの世界は怖いところだったのだ、という感覚がまざまざとよみがえってくるのが感じるはずです。
なにも怖いのはホラー映画や心霊スポット、凶悪犯や天変地異だけに限らないと言うより、本当はふつうの日常がいちばん怖いのだ、と。
その意味で、7月3日におひつじ座から数えて「懐かしい記憶」や「目に見えない心理的背景」を意味する4番目のかに座で新月を迎えていく今週は、例えばこの小説の中で交わされる次のような会話がとてもなまなましく響いてくるはず。
「亜希子は顔をしかめてみせる。
「あーあ、あたしたちってなんのために生きていくのでしょーか」
冗談めかして言ったつもりだが、記実子は笑わなかった。思いがけず真剣な瞳がこちらを見返している。
「続きを知るためよ」
「続き?」」
どこから来てどこへ行くのか
この小説は、確かにこの世界が見えない恐怖に満ちた残酷な場所だったということを思い出させてくれますが、それだけでなく、作者はちゃんと優しくあたたかい結末へと導いてくれますし、なにより単なる虚構に過ぎないので、どうか安心してください。
それに、いい物語というのはこうやって怖さとやさしさとがちゃんと両立しているものだよなあ、と思わせてくれることは請け合いです。
「「僕たちは、無理やり生まれさせられたのでもなければ、間違って生まれてきたのでもない。それは、光があたっているということと同じようにやがては風が吹き始め、花が実をつけるのと同じように、そういうふうに、ずっとずっと前から決まっている決まりなのだ。」
「僕たちは、草に頬ずりし、風に髪をまかせ、くだものをもいで食べ、星と夜明けを夢見ながらこの世界で暮らそう。そして、いつかこのまばゆい光の生まれたところに、みんなで手をつないで帰ろう」」
あなたなら、自分の人生にどんな物語を思い描き、どんなハッピーエンドを重ねていきますか?今週はそういう根本的なところへ、少し手を入れていくことになるでしょう。
今週のキーワード
懐かしい恐怖