おひつじ座
ひとつの終わりを迎えて
夢から醒めるように
今週のおひつじ座は、「ゆっくりと花びらになる蝶々かな」(小林凛)という句のごとし。あるいは、これまでの道ゆきに、ひとつの区切りを付けていくような星回り。
咲いてしまえば、花はほどなく散っていく。そうと分かってはいても、春の訪れを告げられれば樹は花を咲かせ、菜虫も蝶と化していく。人間のように、そこに余計な感傷や逡巡は持ち込むことはありません。
「花びら」と「蝶」がゆるやかに連関しつつその先にある死をほのかに想起させる掲句の中心にあるのは、生命の本質としての「うつろい」。私たちもまた、きちんと散って終わらせ死んでいくことで初めて、夢から醒めるように新しい現実を迎えていくことができるのでしょう。
9日(火)に月がふたご座を通過し、おひつじ座の守護星である火星と重なっては離れていく今週は、これまで長きにわたって見ていた夢から目覚め、そのぬくもりから完全に脱していくにはちょうどいい頃合い。
どうせなら冷水で顔を洗うように、意識をシャンとさせていきたいところです。
なお、作者は「ランドセル俳人」として知られた当時まだ小学生の男の子。学校でいじめに遭い不登校になっていた頃、俳句に救われたのだと言う。そんな作者も今年で18歳、もはや少年ではなく、すでに青年へと様変わりしているはずです。
美意識のバトン
花咲かす樹にしろ蝶にしろ、あらゆる生き物というのは、この世にすっと誕生したかと思えばあっという間にまたあの世へと帰っていく、ひどくあっけなく、はかない存在です。
ともするとネガティブな印象を抱きやすいこうした「はかなさ」について、日本では伝統的にポジティブな意味を与える独自の美意識を育んできました。
「はかないことを夢に見て、美しい取りとめのないことをあれやこれやと考えようではないか。」
「真の美はただ不完全を心の中に完成する人によってのみ見出される。」(岡倉天心『茶の本』)
「はかなさ」とはこうした、自分や人生の不完全さを感得しつつ、それを想像力の働きによって完成させる、日本人がその長い歴史を通して育んできた美意識の要諦。人生という不可解なもののうちに、何か可能なものを成就させんとする覚悟を伴った美意識なのです。
今のあなたもまた、掲句において蝶から花に受け渡されたような「美意識のバトン」を、具体的な文脈でいかに自分なりに行っていくことができるのかを、問われているのかもしれません。
今週のキーワード
不完全さを受け止める