おひつじ座
無心のアイデンティティ
しなやかな<私>を生きる
今週のおひつじ座は、「牡蠣食うて波のかたちの殻残る」(野木藤子)という句のごとし。すなわち、美しいアイデンティティのかたちを模索していくような星回り。
自然の造形というのは、得てして人間のように意図して形を作るのではなく、無心のうちに‟美”を成し遂げます。
例えば、ひまわりの種や松ぼっくりのかさ、オウムガイの断面図などに黄金比が現われることはよく知られていますが、ここでは1枚の牡蠣の殻が取り上げられています。
薄い石灰質が幾重にも重なって、波の模様を描いてゆく牡蠣の殻は、さながら海の中をたゆたっていた頃の記憶をひとつひとつ脱ぎ捨てて何者かに成っていく過程のようでもあり、「真の私」とか「唯一無二の個性」といった硬直して金太郎飴のようにガチガチのアイデンティティとは別の、もっとしなやかな流線形のアイデンティティのヒントを与えてくれるものでもあります。
「寄る年波には勝てぬ」ということわざもありますが、人生に押し寄せた波に応じて、過去の自分を脱ぎ捨てて、新しい人生の波に乗っていくこともまた、自然が仕組んだ美しい生存戦略なのかもしれません。
あるいは今週のあなたもまた、海にさざめく波のように凝り固まった‟自分”の輪郭を広げ、もっと自由に明るくしなやかな在り方へとシフトしていこうとしているのだと言えるでしょう。
「自然体」というハードル
「整体」という言葉が普及するきっかけをつくった野口晴哉(のぐちはるちか)は、自然に生きるとは何も獣のように山野を駆け回ることにあるのではなく、「白い飯を赤き血にして、黄色き糞にしていく」そのはたらきにこそあると言います。
「生の食べ物を食べても、生水を飲んでも、海で泳いでも、森の中に入ってもそれが自然なのではない。人間という集合動物が街をつくり、その中に住んでいたって決して不自然ではないのだ。ただその生活のうちに生の要求をハッキリ活かすよう生くることが、生くる自然であることだけはハッキリしておかなければならない」(『月刊全生』)
身の内にある“よりよく生きる要求”すなわち自然の言うことを、きちんと聞いていくこと。
それこそが「自然体」ということの本来の意味であり、自然を見失った文明人となってしまった私たちにとって、もっとも高いハードルなのかもしれません。
今週のキーワード
自然のリズムと同調する(目安としての太陰暦)