
みずがめ座
豊作祈願

自分自身への祈り
今週のみずがめ座は、吉野弘の「祝婚歌」という詩のごとし。あるいは、未来が自分を引き寄せるかすかな働きかけのほうに、重心を思いきり傾けていこうとするような星回り。
作者が51歳の時の作品であるこの詩は、これから結婚する若い2人の前途に向けて、さながら5月の爽やかな風を呼び込んでいくかのようです。以下その冒頭部分と末尾部分とを数行ずつ引用してみます。
二人が睦まじくあるためには/愚かでいるほうがいい
立派すぎることは/長持ちしないことだと気付いているほうがいい。
完璧をめざさないほうがいい/完璧なんて不自然なことだと
うそぶいているほうがいい/二人のうちどちらかが
ふざけているほうがいい/ずっこけているほうがいい
こうして「……ほうがいい」「……あってほしい」と繰り返し語られていくのですが、それらの言葉は本当は誰よりも自分自身に向けられていることは言うまでもないでしょう。それは末尾に向かっていくにつれ、より明確に示されていきます。
健康で 風に吹かれながら/生きていることのなつかしさに
ふと 胸が熱くなる/そんな日があってもいい
そして/なぜ胸が熱くなるのか
黙っていても/二人にはわかるのであってほしい
もちろん、こうして初老の中年から放たれる理想や願望は、それを現実において実践する側にとっては容易ではなく、完璧な親をめざしてしまったり、「ゆっくり ゆたか」を忘れてついあくせくしたりするのが、大方の人生であるということもよく分かっているはず。というより、そうであるからこそ、自身の過去をあれこれと思い出しつつ、こういう作品を書いたのでしょう。
その意味で、5月4日にみずがめ座から数えて「パートナーシップ」を意味する7番目のしし座で上弦の月(行動の危機)を迎えていく今週のあなたもまた、生きているとどうしても過去の方へとひきずられがちな綱引きを、未来の方へと改めて引き戻していくべし。
色話は豊作をもたらす
人間同士というのは、過酷な状況になればなるほど、放っておくと身も心もバラバラになってしまうものであり、だからこそ結束や絆だけでなく、生きる気力を保つために昔から人が集まればそこでは積極的に「語り」が行われてきました。
例えば戦地においても、飢えと恐怖を封じる手段として話に花を咲かせ、その幻を食べてみなでしのでいたという話を聞いたことがありますが、なかでも食べ物の話や艶話の人気が高かったそうです。
後者は「艶笑譚」とも呼ばれますが、どういう時に話されたかというと、村の寄合や酒席はもちろんのこと、神祭りの場などでも話されていたのだとか。というのも、田の神様は色話が好きで、それを聞くと豊作をもたらすという信仰があったから。神様が色話を聞かせてもらったお礼に五穀豊穣をもたらしてくれるという訳ですが、これも先の表現で言う「未来からの働きかけに引っ張られる」ことの事例と言えるのではないでしょうか。
「尻と臍のけんか」という題の話が「昔、女子の持物な、眉間に付いとつたてたい。ばつてん、あんまり人目に付いて見苦しかけん、場所替えしゅうて思うち、場所ば見つけよつたてたい」なんて語られ始めようものなら、もう無視することなど不可能でしょう。
今週のみずがめ座もまた、なんとなく自身の生きる気力が色めきわたっていくような会話や行為に、思い切っておのれを傾けてみるといいでしょう。
みずがめ座の今週のキーワード
未来からの引力としての色話





