みずがめ座
アナキストの本懐
バカだな
今週のみずがめ座は、深沢七郎の「生態」の秘密のごとし。あるいは、「くらがえする」ことへの躊躇をできるだけなくしていこうとするような星回り。
東京オリンピック前の1950年代終わりに発表されたデビュー作の『楢山節考』以来、深沢七郎という作家の作品は日本の大衆文化の規格や制度的な枠に呑み込まれることなく、「日本国」というリアリティを平然と越えていった数少ない日本語文学の一つでしたが、そうなりえた要因のひとつは、恐らく深沢が“お上”を信じるという体質をまったく持ち合わせていなかったからでしょう。
深沢は商人の家に生まれたこともあって、中学を卒業すると丁稚奉公に出されたそうですが、いとこの影響もあって、何回も奉公先をくらがえしたのだそうです。その上で、彼のエッセイ「生態を変える記」では次のように述べられています。
デッチ奉公をした者にはよく判ることだが、その国に住んでいることは「こうしてはいけない、ゼニの稼ぎは出せ、きめられたとおりにことをしろ」と主人に言われるのと同じだと思っている。ゼニを出せということは税金のことで、これも稼ぎのうわ前をはねられることなのである。言うことをきけというのはデモで反対したことも従わなければならないことで、こうしてはいけないというのは官僚や政治家の都合のいいようにきめられることである。/つまり、旦那が奉公人に勝手な我儘を言っているのと同じである。それだから、その国に住んでいることはその国に奉公しているデッチと同じだ、と私は思っているのである。奉公人はその家が厭になれば奉公先をかえる。つまり、くらがえするのである。
ほんとに簡単なこの法則をなぜみんな実行しようとしないのだろうか。
もし深沢が生きていたら、今回の東京オリンピックについて何と言及したでしょうか。おそらく、何でもないような顔をして、さっとどこか田舎へ引っ越して畑仕事でも始めたかもしれない。そして、私たちに向かってこう言うのです。
「バカだな、おなじところにばかりいるなんて」
1月7日にみずがめ座から数えて「サバイバル」を意味する3番目のおひつじ座で上弦の月(行動の危機)を迎えていく今週のあなたもまた、お上の滑稽な妄想や我儘に付き合う代わりに、ひょいと自分なりの「くらがえ」にいそしんでみるといいかも知れません。
法を破る精神
文化人類学者のジェームズ・C・スコットは、ベルリンの壁崩壊の翌年の旧東ドイツの町の駅前の広場で、五、六十人もの人びとが、5分以上にわたって理不尽なほど長く切り替わらない信号を辛抱強く待っている奇妙な光景に遭遇したことを印象深く述べています。
そして、この光景をのべ五時間ほど観察しているうち、スコットは2回ほど、ひとりの歩行者が信号を無視して交差点を渡っていくのを目撃したのだとか。その歩行者は、信号待ちをしている人びとのあいだで一斉に生じるざわめきと舌打ちに逆らって歩き続ける。
周囲の非難の声と眼差しに逆らって単に通りを横断するだけでも、一体どれほどの勇気をふりしぼらなくてはならないものかと私は驚嘆した。人びとからの非難の圧力に対して、私の合理的な確信はひどく脆く思われた。強い確信を抱いて交差点に向かって大胆に大股で歩きだすことは、より鮮烈な印象を与えた。だが、それをするためには、通常以上の勇気を奮い立たせる必要があった。(『実践 日々のアナキズム』)
もちろん、些細な信号無視であったとしても、どのような時ならば「法」を破るのが理に適うのかを判断するには、相当に慎重な検討を要します。
その意味で、今週のみずがめ座もまた、本当にそれが求められる重大な時のために、いかに法を破る精神を耕していけるかが問われていくでしょう。
みずがめ座の今週のキーワード
アナキストのための柔軟体操