みずがめ座
思いがけない窓が開いて
虚像であるからこそ
今週のみずがめ座は、『夏帽に亡き人の手の記憶あり』(月野ぽぽな)という句のごとし。あるいは、危ういホログラムとしての他者体験に没入していくような星回り。
しまっておいた夏帽を押入れの奥から出してみた時の一幕でしょうか。変形している帽子のへこみに、ふと亡き人の手つきが重なったのかも知れません。
亡くなれば、この世のどこを探しても、もうその人はいないのだと考えるのが一般的な考え方ではありますが、そうではないのだと、こんなところに「亡き人」の生々しい痕跡が記憶されていたのだという作者にとっての真実味がじわりと伝わってくるはずです。
それは作者にとっても、半ば忘れかけていたイメージだったのかも知れません。しかし、偶然の発見や作者の想像力を通して危ういホログラムのようにふっと立ち上がってそれがたまたま俳句となった訳です。
ホログラムの再生には観察者による参与と情報端子との出会いが必要となりますが、逆にそうした出会いさえ作り出せれば、どんなことであれ経験していくことができるのであり、たとえ虚像だとしても、いや虚像であるからこそ、私たちはそれを目の当たりにすることとで、少しだけ自分をケアしたり癒したりすることができるのではないでしょうか。
7月12日にみずがめ座から数えて「他者との関わり」を意味する7番目のしし座に金星(愛情と感性)が入っていく今週のあなたもまた、生きている相手であれ亡くなった相手であれ、どれだけ鮮やかな像を立ち上がらせていけるかがテーマになっていきそうです。
「半地下の部屋の思い出」
作家の須賀敦子が学生時代ひと夏をロンドンの屋根裏部屋で過ごしていた頃の話として、ゴミを捨てにアパートの階段をおりた際、思いがけず地下室の住人と鉢合わせになったことをきっかけに、次のような思い出について書いていました。
思いがけない窓のならんでいるのを見て、私はこどものころ読んだ話を思い出した。キエフだったか古いロシアの町に、靴職人がいた。その男は地下室のような部屋に住んでいたが、場所が場所だし、職業がらもあって、道を通る人たちの靴をいつも注意して見ている。靴から上は見えないのだけれど、靴を見ただけで、男にはそれを履いている人の寿命がすっかりわかってしまう。そんなふうにストーリーが始まるのだった(『霧の向こうに住みたい』)
確かに町で建物のそばを歩いていても、私たちはほとんどの場合、自分の足の下がガランドウになっていることなど想像だにしません。須賀が出会った地下室の住人である老婦人も、まさにキエフの靴屋さんと同じような造りに違いないと直感したからこそ、彼女の記憶に深く刻まれたのでしょう。
今週のみずがめ座もまた、こんな角度から自分に向けられていた視線があったのかという新鮮な出会いに不意に開かれていくことがあるかも知れません。
みずがめ座の今週のキーワード
ラッキー・ストライク!