みずがめ座
へその緒を切る勇気
※7月2日配信の占いの内容に誤りがございました。お詫びして訂正いたします。(2023年7月3日15時11分更新)
正札を外す
今週のみずがめ座は、アニー・ディラードの文章術のごとし。あるいは、「全部捨てればいい、振り返ってはいけない」という彼女の言葉を受け入れていこうとするような星回り。
名エッセイストで知られるアニー・ディラードが、文章を書く上で大切にしている秘訣について綴った『本を書く』という本のなかに、次のような一節があります。
あなたが放棄しなければならないのは、単にもっともよく書けた文章というだけでなく、皮肉なことに、今まで書いたものの中でももっとも核になる部分なのだ。それはもともとの主要な一節である。そこからほかの文章が派生する部分であり、そのためにあなた自身その作品を書く勇気と得たというエッセンシャルな部分である。
つまり彼女は、ここだけは決して切り捨てていはいけないし、その必要などないと心底思える最良の部分をこそ放棄せよ、それが文章術だと言っている訳で、はじめて読んだときはぶったまげたものでした。
いや、正直に言うと、いまだに納得はいっていません。しかし、書き手はそれを書くのに苦労した文章ほど、自分がどれだけ苦労したか、ねぎらいや称賛が必要かを知ってもらうために、最後まで頑固に残そうとするというアニーの指摘にぐうの音もでない人も、決して少なくないのではないでしょうか。
つまり、それは本当の意味で作品に必要だから書かれた文章ではなく、誰かに見せるために、しかも作品の本質とは無関係な理由のために取っておかれてある場合が多い訳で、それをアニーは「作家がへその緒を切る勇気がなかった作品はたくさんあ」り、それは「正札を外さなかったプレゼント」に他ならないのだ、というじつにうまい言い方でばっさりと切って捨てています。確かに、読者からすれば、書き手からのプレゼントはともかく、それを書くのに幾らかかったなど知りたくもないでしょう。アニーは続けます。
道そのものは作品ではない。あなたがたどってきた道には早や草が生え、鳥たちがくずを食べてしまっていればいいのだが。全部捨てればいい、振り返ってはいけない。
7月3日にみずがめ座から数えて「怖れ」を意味する12番目のやぎ座で満月を迎えていく今週のあなたもまた、自分が紡ぎ出す世界を変えるためにも、誰も見ていないところでどれだけアニーがいうような「恐るべき行為」を実行できるかどうか問われていくでしょう。
おのれのロクデナシさ加減を知る
何かを書くのであれ、話すのであれ、そこに言葉が介在するかぎり、それはその人の一番奥の方に巣くっている生霊(いきすだま)を放ってしまうということであり、普段自分でも忘れている生への恐れや、うわべでは上手に隠している悪の部分を解き放っていくということでもあります。
したがって、人を傷つけもすれば、みずからも血を流す行為であり、考えれば考えるほどすれすれの振る舞いです。しかもそれを何かしら「芸」として売り出すようなあざとい真似をしている者なら、皆すべからくロクデナシと決まっています。
けれど、そんな業さらしな真似をせずにはいられないのも人間の本性であって、どれだけ嫌気が差そうと毒気にまみれようと、いったんそういう行為に加担してしまえば、もはや元には戻れずのめり込むばかりで、それらの営みと共に生死を超えてゆくしかないのです。
今週のみずがめ座もまた、普段自分のしでかしていることの恐ろしさとむごさを抱えながら、それでも誰かに向けて何かしらを発信していく自分の姿をよく見つめてみるべし。
みずがめ座の今週のキーワード
思い切って一切の言い訳をやめること