みずがめ座
身のうちを走り抜けるもの
清冽なカタルシス効果
今週のみずがめ座は、『春尽きて山みな甲斐に走りけり』(前田普羅)という句のごとし。あるいは、精神の汚れや澱を洗い流していこうとするような星回り。
「ゆく春を惜しむ」という、甘やかな感傷に流れがちな季語を用いつつも、初夏へと向かう季節の勢いを感じさせる一句。
甲斐の隣国である信濃あたりで詠まれたものでしょうか。燃えるような明るい緑に染まっていく山々を眺めているうちに、動かないはずの山が青葉若葉を引き連れていっせいに走っていくように見えたのだという。
こうした感覚は、実際によく登山をしている人なら体験的にわかるのではないでしょうか。自然のなかを歩いているうちに、自分という意識が次第に消えて、ふと自然と共に歩いているような気がしてくる。ざざっと爽やかな風が吹きわたった瞬間に高まるその疾走感。
その一瞬、日頃のちょこまかとした気苦労や世間のしがらみなど、いっさい忘れてしまったはず。こうした実感にもとづいた掲句は、自然が人間を浄化するということの内実について、簡潔に教えてくれているように思います。
20日にみずがめ座から数えて「精神的な活動」を意味する3番目のおひつじ座で新月(日蝕)を迎えていく今週のあなたもまた、SNSや世間に接しているうちに疲弊しがちな精神をいかにリフレッシュさせていけるかがテーマとなっていきそうです。
色話は豊作をもたらす
SNSの気軽なやり取りであれ仕事の打ち合わせであれ、人間というのはそもそも業のかたまりですから、複数人で集まってもつれあううちに、必ず結束や絆などという綺麗で前向きなエネルギー以上に、嫉妬や不満、愛憎や権力構造のねじれなど、負のエネルギーが蓄積されていくものであり、だからこそ昔から伝統的な共同体などでは、そうした負のエネルギーを別の形で発散させる“はけ口”が用意されているものでした。
例えば、かつて戦地では兵士たちの飢えと恐怖を封じる手段として話に花を咲かせ、その幻を食べて皆でしのでいたという話を聞いたことがありますが、なかでも食べ物の話や艶話の人気が高かったそうです。
後者は「艶笑譚」とも言われますが、これはどういう時に話されたかというと、村の寄合や酒席はもちろんのこと、神祭りの場などでも話されていたようで、田の神様は色話が好きで、それを聞くと豊作をもたらすという信仰があったのだそう。神様が色話を聞かせてもらったお礼に五穀豊穣をもたらしてくれるという訳です。
「尻と臍のけんか」という題の話が「昔、女子の持物な、眉間に付いとつたてたい。ばつてん、あんまり人目に付いて見苦しかけん、場所替えしゅうて思うち、場所ば見つけよつたてたい」なんて語られ始めようものなら、もう無視することなど不可能でしょう。
同様に、今週のみずがめ座もまた、自然と自身の生きる気力が色めきわたっていくように、自分好みの“はけ口”をみずからに当てがっていくことがテーマとなっていきそうです。
みずがめ座の今週のキーワード
にわかに色めき立つ