みずがめ座
忘却から醒める
土裂けて
今週のみずがめ座は、「浮雲の思ひ」という言葉のごとし。あるいは、思いがけない事態において不安が触発されていくような星回り。
鎌倉時代に書かれた『方丈記』には、飢饉や天災、疫病によって地獄と化した地上で苦しみ喘ぐ人びとの様子が克明に描かれていましたが、1945年3月の東京大空襲のただなかにあった作家・堀田善衛はそんな記述の中に、自身の戦中体験を再発見していったのでした。
その際、特に堀田の心をざわつかせたのは「戦禍の先にある筈のもの」である「新たなる日本についての期待の感及びそのようなものは多分にありえないのではないかとい絶望の感」であり、『方丈記』の「古京はすでに荒れて、新都はいまだ成らず。ありとしある人は皆浮雲の思ひをなせり」という一文を引きつつ次のように続けています。
断裂、亀裂、裂け目そのもの、裂け目それ自体、地震のくだりの言葉を使うなら、「土裂けて」の、その裂け目自体の上に、というか、裂け目のなかに、というか、とにかくそれ自体のところに在らせしめられたものの思いが、すなわち「浮雲の思ひ」なのであった。新都、すなわち新たなる日本についてのイメージ、あるいはその期待に具体性を付与できる人ならば、決して「浮雲の思ひ」などをなす筈はないのだ。(『方丈記私記』)
ここでいう「断絶」や「裂け目」という言葉は、これまで当たり前のように持続してきたものが、ある日を境に突然、必然でも自然でもなくなってしまった新たなる事態に襲われた人の感じをよく言い表しているのではないでしょうか。
1月23日にみずがめ座から数えて「安心の囲い」を意味する4番目のおうし座で約5カ月間続いた天王星の逆行が終わって順行に戻っていく今週のあなたもまた、断絶のなかでみずから「浮雲」となっていくような思いを体感していくことになるかも知れません。
日常と演技と亀裂
日頃より懸命にこの世を生き、平凡なサラリーマンであれ、家庭を支える大黒柱であれ、自由でさみしい独身貴族であれ、演じている役柄に熱心に打ち込めば打ち込むほどに、「本当の自分は何者なのか?」といった問いは、どんどん忘れ去られていく。というより、そうした“忘却”こそがこの世でうまく生きていく上での大前提なのです。
しかし時折、役柄上の自分は本当の自分自身ではないのだということを、ふと感じてしまうことがある。「浮雲の思い」です。一度それが出てきてしまうと、これまでごく自然に展開されていた現実劇にNGを出したり、スムーズに乗れていた脚本に乗れなくなったり、慣れ親しんだ日常舞台がとたんに嘘っぽく、居心地の悪いものになっていくはず。
今週のみずがめ座は、ふとしたきっかけから亀裂が入り、そこからニョッキリと顔を出してくる違和感や不安が無視できなくなった時、どうするべきかを問われていくようなタイミングとなっていくでしょう。
みずがめ座の今週のキーワード
古京は既に荒れ、新都はいまだ成らず