みずがめ座
目に見えない風に乗る
雀躍と寒風
今週のみずがめ座は、『初雀刃渡り長き風に乗り』(中西夕紀)という句のごとし。あるいは、おのれを研ぎ澄ませていくような儀式を敢行していこうとするような星回り。
高浜虚子が「雀躍といふ言葉があるやうに、喜びを象徴するものとして、新年の季題とされたものであらう」と説いているように、卑近な日常だからこそ、新年を迎えた心持ちを表すのに「雀」は好んで使われてきました。
とはいえ、ふつうなら地面をぴょんぴょんと跳ねて歩く姿の可愛らしさと、空の青や朝日の神々しさを対比させるだけの、似たり寄ったりの平凡な類想句になってしまいがちで、どうにか一工夫を入れたいところ。
掲句の場合、まず「刃渡り長き風」という表現が鋭利な寒風を視覚的に冴えて見せ、それに乗らんとしている雀までも、どこか凛々しく感じさせる効果を生んで、それが清澄な空気の中で改めて気を引き締めていこうとする新年の気配にも通じていきます。
こうして本来目に見えないはずのものまで観察し、それをあえて視覚的に表現してみせることで、月並みさを打ち崩す意外性をもたせている訳です。
1月7日にみずがめ座から数えて「日常の儀式化」を意味する6番目のかに座で満月を迎えていく今週のあなたもまた、ごくありふれた光景を意外な相貌へと変えていくべく、日常に新しい風を吹き入れていきたいところです。
努力か、はたまた跳躍か
生まれてきた以上は人は世の中に必要とされるよう努力すべきだ
今、いのちがある限り、君には必ず使命がある
使命を見出すためにも、自分の人生を力強く歩んでいかないといけない
こうしたメッセージは現代社会では見慣れ切ったものとなっていますが、「使命」などと大仰な言葉が使われているのも、要は「自己責任」や「責務」という言葉の言い換えでしょう。すなわち「生産性のない人間には生きる価値はない」というどこかの誰かの発言の裏返しでもあり、なんだかんだと言えど、今日の日本社会で広く受け入れられている生産性信仰に基づくじつにありふれた思想の表明と言えます。
ああ、素晴らしきかな‟不断の努力”とそれを疑うことなく価値づける労働倫理!しかし、ほんらい生はどこまでも無根拠であり、無底。つまり、あらゆる意味付けや解釈を無効化し、価値という尺度を拒絶する地獄の底の奇蹟であり、どんな負債からも自由な‟語りえない”何かであるはず。
今週のみずがめ座もまた、自分がそこに投げ込まれ硬直しつつある既存の文脈に対し、さながら掲句の「初雀」が「風」に乗ったように、そこから飛び出していくためのきっかけをつかんでいくことがテーマとなっていくでしょう。
みずがめ座の今週のキーワード
水面の上をはねる魚となるか、水を得た魚となるか