みずがめ座
波打つ熱情と震える指先
鬼城の人間愛
今週のみずがめ座は、『柿売つて何買ふ尼の身そら哉』(村上鬼城)という句のごとし。あるいは、世を呪い人を嘲る皮肉な調子とは真逆の方へ言葉を用いていくような星回り。
尼寺の軒先で柿を売っている尼僧について詠じた一句。この尼は頭をまるめ、墨染の衣をまとい、粗末なものを食い、貧しい田舎の尼寺で暮らしている身であり、若干の金を得たところでどうすることもできない境遇ではないか、それで何を買って楽しむというのだ、といったところでしょうか。
とはいえ、作者はあえて俗気の抜けきらない尼をなじったという訳ではなく、おそらくそういう境遇にいる世捨て人としての女性を憐れみつつ、親しみを感じて言ったのでしょう。
金を持つ楽しみというのは、結局のところ口に甘いものとか、耳目を喜ばすところのものとか、そういうものを得たいがためのものであり、それは出家した尼であろうと誰であろうと、同じ人間であれば変わらないじゃないか、と。
こうした言葉は、貧者であり、老人であり、聾者でもあった作者の手や口から紡ぎ出されることによって、人間存在へと等しく向けられるその熱情がより一層脈管のなかを波打って感じられてくるように思います。
10日にみずがめ座から数えて「コミュニケーション」を意味する3番目のおひつじ座で満月を迎えていく今週のあなたもまた、発する言葉によくよく自己への滑稽や人間を恋い慕う心持ちを含ませていけるかがテーマとなっていくでしょう。
初々しさが大切なの
SNSなどで世を呪い、人を嘲ることがあまりに当たり前になってしまった今の社会にあって、茨木のり子さんの『汲む―Y・Yに』という詩もまた、定期的に思い出しては暗誦しておきたい作品の一つであり、今週のみずがめ座にとって確かな指針となりえるはず。以下、その一部を引用しておきます。
初々しさが大切なの
人に対しても世の中に対しても
人を人とも思わなくなったとき
堕落が始るのね 墜ちてゆくのを
隠そうとしても 隠せなかった人を何人も見ました私はどきんとし
そして深く悟りました大人になってもどぎまぎしたっていいんだな
ぎこちない挨拶 醜く赤くなる
失語症 なめらかでないしぐさ
子供の悪態にさえ傷ついてしまう
頼りない生牡蠣のような感受性
それらを鍛える必要は少しもなかったのだな
年老いても咲きたての薔薇 柔らかく
外にむかってひらかれるのこそ難しい
あらゆる仕事 すべてのいい仕事の核には
震える弱いアンテナが隠されている きっと……
みずがめ座の今週のキーワード
年老いても咲きたての薔薇 柔らかく
外にむかってひらかれるのこそ難しい