みずがめ座
淋しさとその耐えがたさと
葛藤としての「こころ」
今週のみずがめ座は、夏目漱石の『こころ』のごとし。すなわち、取り返しのつかなさをそっと受け入れていくような星回り。
若気の恋心から親友を裏切って、お嬢さんと結ばれ、結果その親友は自殺してしまった。そんな忘れられない過去を持つ「先生」の運命をめぐって展開されるこの小説は、この世でいちばんデリケートに取り扱われるべき「痛み」や「恥」といったテーマを、作者のひんやりとした揺るぎない筆致でひたすらに淡々と描いていくガラス細工のような作品。
でも恋愛のいざこざだって、誰かを裏切ることだって、誰の身においても一度や二度は起きても仕方のないことですし、私たちはいつでも誰より自分が可愛くて、他の人のことなど二の次で、絶対的に正しくなんていられない生き物であるはず。それゆえにこそ、この小説で描かれるような「取り返しのつかなさ」を私たちはそれぞれの孤独のなかで受け入れていくしかないのでしょう。
その意味で、「先生」が自分の運命について語る次のようなセリフなどは、まさに作者が「こころ」と名付けた、引き受けるべき葛藤そのものと言えます。
私は今より一層淋しい未来の私を我慢する代りに、淋しい今の私を我慢したいのです。自由と独立と己(おのれ)とに充ちた現代に生れた我々は、その犠牲としてみんなこの淋しさを味わなくてはならないでしょう
19日にみずがめ座から数えて「決定的な他者との関わり」を意味する7番目のしし座で新月を迎えていく今週のあなたもまた、結局そうした淋しさを通してしか誰かと繋がっていくことはできないのだと、改めて実感していくことになるかも知れません。
終わりが想像できない関係
「私」にとって「先生」がそうであったように、相手が誰であれ、実際に対象へと肉迫し、十分な接近を果たすことによって初めて、対象の真の姿やリアルな生の実態というのは見えてくるものです。
ただ、もちろんそうまでして肉迫したいと思わせてくれる対象というのは稀有な出来事でもあって、たいていどこかで面倒になってしまったり、関心が薄れてそこでEndマークを迎えてしまうのが実際の現実でしょう。
逆に言えば、腐れ縁のように、なぜだか自分がこだわってしまってなかなか容易に終わりが想像できない、どうしても思い描けない相手というのは、その存在自体が運命的に抱え込むことをどこかで望んだ葛藤なのなのかも知れません。
真に手を伸ばすべき対象は、意外と既に身の周りに転がっているもの。そんなことも今週は改めて胸にとめておきたいところです。
今週のキーワード
私たちは淋しさに耐えられないから本を読むのかも知れない