みずがめ座
夜明け前の帰り道
サティの徒歩癖
今週のみずがめ座は、街灯の下でアイデアを書き留めるエリック・サティのごとし。すなわち、人から見えないところで命懸けになること。
「音楽界の異端児」と呼ばれるエリック・サティは、19世紀から20世紀にかけて活躍したフランスの作曲家。
32歳の時にパリの中心部から郊外の町に引っ越してからというもの、死ぬまでの約30年間ほとんど毎朝、元の家までの10キロ近い道のりを徒歩で歩くことを日課とし、途中ひいきのカフェに立ち寄って、午前1時発の最終列車までの時間を過ごしたのだと言います。
しばしば彼はその最終列車さえも逃して、そのときは家前の道のりをやはり徒歩で歩き、帰りつくのが夜明け近くなることも少なくなかったのだとか。
こうした彼の徒歩癖は、その創作活動とどんな関係にあったのか。あるいはなかったのか。
ある研究者は、サティの音楽の独特のリズム感や、「反復の中の変化の可能性」を大切にするところなどは、「毎日同じ景色のなかを延々と歩いて往復したこと」に由来するのではないかと考えているそうですが、直感的に述べれば、特に最終列車を逃した後の帰路が鍵を握っていたのではないかと思います。
12日(木)にみずがめ座から数えて「産みの苦しみ」を意味する5番目のふたご座で満月を迎えていく今週のあなたもまた、人知れずアイデアを生み出すべく長い帰路を歩いていくことになりそうです。
訪れを拾っていく
「自動筆記」というものをご存知でしょうか。いわゆるチャネリング手法の一つで、あたかも何か別の存在に憑依され、自分を支配されているかのように、意識とは無関係に何かを書き出してしまう現象を言います。
とはいえ、こんなに大げさな言い回しなどしなくても、私たちは日頃から少なからずこうした体験をしているのであり、サティという人はそれに気付いて、自身の創作に取り入れていたのではないでしょうか。
それは聞き間違いや、雑踏でなんとなく耳に入った言葉、不意に口から出た一言だったり、なんとなく足が向いた路地や、なぜか立ち寄ってしまったお店など、じつにさまざまな形で私たちの体に降りてくる。
ただそのことに気付くには、いわば「意識的無意識」というニュートラルな意識状態を、意図的に作り出せるかどうかが問われていきます。
開かれつつ、待っていること。我慢強く。緩急をつけて。そして、捕まえた途端に表現に変えること。この一連の流れを、今週はどうか大切にされてみてください。
今週のキーワード
文体練習