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今週のおひつじ座の運勢
文体練習
今週のおひつじ座は、「ふと…」した日常の新たな価値を実感していくような星回り。
高野文子の「バスで4時に」という漫画作品は、ただ単にバスでどこかへ行くという話。主人公の女性がバスの席に座っていて、自分の目の前にシュークリームの箱がある。その中に8個入っていることを思い出した上で、「あちらが3人、あたし入れて4人。後から遅れてもうひとり、3つあまる…」などと計算していきます。
そして、不意に前の座席の下のボルトを見る。ボルトを見ていると連想が働いて、次第にねじ回しのイメージにズームアップしていき、このへんから発想が飛んでいきます。何だか分からないでっかい機械が動いているイメージになり、この機械が下から「ゴー」という音を立てて上がってくる。じつはこれはファスナーで、それを上まであげて襟を折る、というところで見開きが終わるのです。
ふつう、わざわざ作品にしようとは思わない情景ですが、彼女はふとした瞬間に、自分の想念がぜんぜん脈絡なく運んでいくイメージとか、その時間経過についてこれだけのコマと手間を使って描いている。それは、とても豊かで創造的なことなのでは。あなたもふとした瑣末な日常の瞬間にこそ、もっとも味わうべき価値があるのだということをみずから示していくことがテーマとなっていくでしょう。
今週のおうし座の運勢
いのちあおあお
今週のおうし座は、身の上に起きるいろいろなことを柳のように受け流していくような星回り。
「恋々として柳遠のく舟路哉」(高井几董)の「恋々として」は、未練の気持ちが捨てきれず諦められないさまを表わしていますが、そのまま読むと七音で字余り。「恋々と」なら五音におさまるにも関わらずわざとそうしなかったのは、おそらくは女性だろう作中主体の、いつまでも尾をひいていく想いをそこに重ねたのでしょう。
川が流れるというのは、時間が流れることのメタファーですが、本当は「意識が流れている」のであって、これは前を見ることができないということでもあります。私たちは、いわばバックミラーごしに過ぎ去っていくものを見ることで、心の中でそれを起こし、それを言葉にしていく。
逆に言えば、私たちは自分の心が作り出した事物の“影”に囚われていて、逃れることができない。えんえんと柳から遠ざかり続けている。つまり「柳」は影に対する本当のリアリティであり、すべてが流れさっていくなかでいつまでも残り続ける緑であり、これは「ただ在る」ということに他なりません。あなたもいつまでも年をとらない「いのち」を感じ取って、そこに安らいでいきたいところです。
今週のふたご座の運勢
顔の深みと視線の置きどころ
今週のふたご座は、想像力を閉ざさず、開いていこうとするような星回り。
「自殺とは想像力の断絶である」という言葉は、前後の文脈は忘れてしまったのですが、中学3年の時に国語の先生が授業中に発した言葉。以降ずっと頭のすみにあるのですが、それと似たことを19世紀アメリカの哲学者ジョサイア・ロイスは次のように述べていました。
「あなたは、(あなたの隣人の)考えや気持ちをあなた自身のそれとはいささか異なったものとみなしている。あなたは言う。『隣人の痛みは私の痛みとは異なっており、私の痛みに比べればはるかに耐えるのが容易なのです』と。あなたの目に映る隣人は、あなたほど生き生きとした存在ではない。…ぼんやりとそして何も考えず、隣人のことを分からぬまま見ようともせず、ともに生きている。あなたは、(隣人を)自我をまったくもたぬひとつの物となしている。」
これがつまり想像力の断絶ということであり、私たちは緩慢な自殺のさなかにあるのかも知れません。想像力を閉ざしてしまうのは、おそらく隣人の、恋人の、親の、本当の気持ちを知ることが怖いからでしょう。あなたもまた、他人も人であると単に口にするだけでなく、腹の底から理解していくということがいかに困難で、だからこそ大切なことであるかを、改めて実感していくことになるはず。
今週のかに座の運勢
並外れたことを行っていく
今週のかに座は、かすかな違和感を見逃さず的確に反応していこうとするような星回り。
「筆を擱く花ぐもりにはやや暗く」(皆吉爽雨)の「筆を擱(お)く」とは、文章を書き終える、ないし書くのをやめること。また、「花ぐもり」とは春に花咲く時期のくもった天気の意ですが、通常は雲が低く垂れこめるほどではなく、比較的明るい曇り空を指します。
ただ掲句は「やや暗く」とあるので、日が永くなった春といえども、気がついたらすっかり日が暮れていたのでしょう。逆に言えば一心不乱に筆をとっていたはずですが、何を書いていたのかについては一切説明はありません。ただそういう曖昧さをも包み込む、どこか「のっぱらぼう」な時間の流れが春という季節にはあって、もしかしたら作者はそれにふと違和感を覚えて筆を擱いたのかも。
区全体を通して何かが起きている訳ではなく、表面上は穏やかですが、そこには素通りできない沈潜があり、深い含蓄を感じさせます。それは五十歳に達した作者の年齢がなせるわざでもあったように思います。あなたもまた、自分がこれまでいた流れにどこかで違和感を覚えることがあるかも知れません。
今週のしし座の運勢
物語発生装置
今週のしし座は、組織であれ事業であれ、生きた事物に必要な「動き」を見抜いていこうとするような星回り。
量子力学の父ニールス・ボーアが原子レベルのモデルを考えていたとき、「動く数学的なモデル」を作って思案を重ねていたそう。20世紀に入ってから科学やデザイン、建築や芸術などさまざまな分野で、こうした「動くモデル」が発明・発見のために用いられるようになってきました。
その中に「ガストロフルックス」というモデルがあります。平面だと16の花弁をもつ花を連想させる形をしているのですが、これを中心部で絞りながら球体にしていくと、二重の球が生じてきて、それが内側へとたくし込まれて拡大。もう一度、外側へと循環していきます。こうした運動は「4次元なプロセス」とも呼ばれていますが、じつは生物学で「内臓化」と呼んでいるものとも酷似しているそうです。
「内臓化(Gastrulation)」は、ほとんどの動物の胚発生の初期段階で見られるもの。これによって胚は分化を開始し、異なる細胞系統を確立して、背腹とか前後など体の基本軸を設定していくため、生物が生物として進化していく際には必ずこの動きが必要となってくる訳です。あなたも静止した現象をいじくり回すのではなく、あくまで動きのなかに現れてくるものを直観的に受け取っていくべし。
今週のおとめ座の運勢
霊的なものとの折り合い
今週のおとめ座は、いたずらに何かになろうとするよりも、こうでありたくはないという側面を減らしていこうとするような星回り。
「春雨に大欠する美人哉」(小林一茶)という句に限らず、一茶の句に出てくる女性は、どうも色気が少ないように感じます。長い独身生活のせいかとも考えられますが、結婚後に詠んだ句も大して変わりがないので、もう根っからのことなのでしょう。
掲句にしても、ひとりの人間から滲みだす色気にフォーカスするというより、女のいる風景全体の情感というか、哀憐のようなものを感じさせます。一茶はどこか女性を性悪で、あわれな生き物として客観視するところがあったのではないでしょうか。実際、五十を過ぎて家を構え妻をめとるまで、本当に愛恋を感じた人もいなかったようです。
あくまで推測の域を出ませんが、それはやはり継母と折り合いが悪く、幼くして郷里を離れたことが彼の女性観に大きく影響していったのかも知れません。あなたもまた、一茶よろしく、自分のこころに差し込んでくる暗い影をじっと見つめてみるといいでしょう。
今週のてんびん座の運勢
軽やかに、残酷に
今週のてんびん座は、いっそ悪党になり切っていこうとするような星回り。
古代ギリシャの哲学者たちのあいだでは徹底的に低く見られた一方で、商人とソフィスト(職業的知識人)には高く評価された「メティス」。基本的にはいわゆるずる賢さのことなのですが、ベルギーの宗教学者マルセル・ドゥティエンヌはそうしたメティスの起源について興味深い指摘をしていました。
ギリシャ神話では、ゼウスの知恵の源ともされるメティスの起源はタコなのだと言ったんです。突然口から墨を吐いて逃げたり、知らんぷりして近づいていって高電圧で相手を倒すとか、とにかく卑怯なマネをして、戦略を立てて勝つというのがメティスで、最後は「こいつはどうしようもない悪者だ」という印象を残して去っていく。
つまり、暗い神秘主義の神様で、平気で関係者も殺してしまうような、こんなに恐ろしいものはないというくらいの悪党なんです。現代の知識人というのは、あまりこういうメティスは受け入れられなくなりましたが、自然界の秩序を破って新たな物語を展開するトリックスターというのは、本来そういうものだったのでしょう。あなたもまた、ある種の商いの感覚をよみがらえさせていくべし。
今週のさそり座の運勢
だんだん“われ”が消えていく
今週のさそり座は、淡々と自分の仕事に没頭していくような星回り。
「独り句の推敲をして遅き日を」(高浜虚子)は、昭和34年の春、作者が85歳で亡くなる9日前に詠んだ句。決して自分自身について詠んだ訳ではなく、あくまで弟子の十七回忌に寄せて、その面影を「独り句の推敲をして」と表現したのでした。
とはいえ今やこの句を鑑賞する者にとって、独り句の推敲をしつつ遅き日を過ごす人に、他ならぬ虚子本人の姿を重ねずにはいられないでしょう。そうして亡くなった後にも、俳句の世界に永遠に居続けてくれることを、多くの弟子や読者もまた願ったはずですから。
ゆったりと時間の流れる春の昼下がりには、永遠にみずからの仕事に励み続けている死者の存在が、なんとなく傍近くに感じられてます。墨をする音、原稿にインクを走らす音、書籍をパラパラとめくる音。そんなかすかな作業音をとおして、今も死者と生者は互いの存在を確かめ合っているのではないでしょうか。あなたもまた、動きのなかで瞑想的時間を作り出していくべし。
今週のいて座の運勢
愛を育てる
今週のいて座は、単なる感覚的な享楽よりも、求めるに値するものに改めて気が付いていくような星回り。
古今和歌集に載っている「大空は恋しき人の形見かは物思ふごとに眺めらるらむ」(酒井人真)という恋歌について、荻原朔太郎は「恋は心の郷愁であり、思慕のやる瀬ない憧憬である。それ故に恋する心は、常に大空を見て思ひを寄せ、時間と空間の無窮の崖に、抒情の嘆息する故郷を慕ふ。恋の本質はそれ自ら抒情詩であり、プラトンの実在(イデア)を慕ふ哲学である。」などと評しています。
ここには、私たちが経験しうるすべての知の源泉としての「心の故郷」へ回帰する道としての哲学、そしてプラトンの対話篇とはそれへの愛を問いただした痕跡に他ならなかったのだという、詩人の洞察が示されています。
彼の中では「実在(イデア)」という哲学的概念と抒情詩=恋愛とがこれ以上ない魅力的な仕方で結びついていたのでしょう。あなたもまた、こうした「郷愁」や「憧憬」をいかに鮮やかにこころに甦らせるかこそがテーマとなっていくことでしょう。
今週のやぎ座の運勢
日常を掘り下げる
今週のやぎ座は、ふとした瞬間に行くべき場所や話すべき相手に引き寄せられていくような星回り。
「あたたかな橋の向うは咲く林」(宮本佳世乃)は、どこか夢の中の情景のような一句。「咲く林」とあるのは、フタリシズカでしょうか。大きな緑の葉の上に小さな白い穂状の花を2本出して咲くことからそう名付けられたこの花は、雑木林の一角などに群生し4月から初夏にかけて咲いていきます。
春の日差しとは対照的な山林の暗がりで、寄り添いあうように密集して咲くフタリシズカは、どことなく密やかな趣きがあり、まるで内緒話をしているよう。そこはあきらかに人間の世界ではないにも関わらず、橋をこえれば簡単に行ける場所でもあります。ただし、その橋が「あたたか」でなければ、林は咲いていないのであって、それ以外の時期に橋を渡っても歓迎はされないのではないでしょうか。
すなわち、句に詠まれた橋の向うの咲く林とは、この時期、このタイミングでしか行くことのできない場所であり、そこでしか交わせない会話がある。どうも掲句には、そんなことをつい連想させられるノスタルジーを秘めているように感じます。あなたもまた、不思議と思い出される場所や相手がいたなら迷わずそちらへ渡ってみるといいでしょう。
今週のみずがめ座の運勢
恥があふれる
今週のみずがめ座は、自分の中に息づく因果の種が育ち始めていくような星回り。
詩人はなぜ、詩を書くのか。それに対する最も説得力のある答えは「恥」の感情でしょう。ぬぐってもぬぐっても汚れの落ちきらない不快な傷跡だから、言葉で飾ってつかのまの安堵を求めるのであり、だから詩人の書き上げる詩の透明度とは、詩人の人生の汚染度であり、言葉になった珠玉の数はすなわち恥の数に他ならないのではないでしょうか。
恥の上に恥を重ね、それを捨てることもできず引きずり、数えきれない恥を数珠のように繋ぎあわせながら、未練がましくそれを首に巻いて歩いていく。つまりはっきりと自己主張する度胸もなくてにやにや笑ってごまかしたり、憐憫の情につけこんで何かものをもらったり、さんざん人を振り回しておいて悪気はないとうそぶいて最後は逃げてしまったりと、誰しもが持ち得るような、およそ平凡な痛みに貫かれているのが詩人の魂なのです。
恥があふれにあふれて、両の掌からこぼれ落ちたとき、それが砂金のようにきらめく詩篇となっていく。「みなごろし」というのも、もしかしたら本当はそんな瞬間のことを言うのかも知れません。
今週のうお座の運勢
脱力感のあとの回復
今週のうお座は、勇み足をするくらいでちょうどいいような星回り。
誰もがいつか死を迎え、それをとどめることはできません。しかし、それを素直に受け入れられないのが人情というもの。「死ぬものは死に行く躑躅燃えてをり」(臼田亜浪)という句の場合も「死ぬものは死に行く」と言い切るところから、「躑躅(つつじ)燃えてをり」と一気呵成に繋げていくことで鮮烈な印象を与えてはいますが、諦観に徹することのできない命あるものの抵抗という余韻が残ります。
というより、調子を高く出し過ぎたがために、主観過剰でかえって破綻をきたしていると言った方が近いのでは。ある種の逆説的効果がきいている訳ですが、これは掲句を詠んだ終戦当時に妻を亡くしているということも大いに関係しているのでしょう。
つまり、あえて過剰な言葉で心情を吐き出し切ってみることで、おのれの身を浮かばせたのかも知れません。あなたもまた最後の一滴まで絞り出すかのようにおのれの生きる気力を燃え上がらせていくべし。
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